事実上解禁されたネット選挙 --- 本山 貴春

アゴラ編集部

私は平成23年4月の福岡市議選に立候補した際、選挙期間中にインターネットを利用した「ブログ更新の罪(!)」に問われ、福岡県警により書類送検された。ネット選挙に関する基本的な考えは、前回アゴラに投降した記事「政治と選挙とインターネット」を参照していただきたい。

さて書類送検後、1年以上の期間を経て福岡地方検察庁より調書作成に協力を求められ、2度任意聴取に応じた。その際、私は従来の主張(インターネット選挙は禁止されていない)を淡々と述べた。担当の検察官も、本事案について違法性を問えるのか悩んでいる印象を受けた。書類送検から検察の事情聴取まで1年以上を要した理由を尋ねたが、途中で担当者が変わったのでわからないということであった。おそらく、検察内部でも法改正の時機を睨んだり、議論を重ねたりしたのではないだろうか。


そして平成24年10月5日、検察庁の事務官より私に電話があり、「起訴猶予(不起訴処分)」となったことが伝えられた。私の「行為」について「新たな事実」が発見されることはないので、これによって法的決着がついたことになる。

私は調書作成にあたり、鹿児島県阿久根市長選挙(平成17年)の事例をもって検察を批判する主張を述べた。即ち、「ネット選挙について検察は起訴猶予としながら違法性を認定すると発表した。違法性があるならば起訴すべきである」。この批判に対して担当検察官は、「暴行事件などのように、違法性があっても起訴しないことはある」と反論した。しかしネット選挙と暴行事件を同列に扱うのは明らかにおかしい。

ネット選挙を通じて私が訴えたかったことは、官僚支配に対する批判である。官僚が恣意的に法律を解釈することによる日本社会全体への弊害は極めて大きい。官僚は民主党への政権交代後も法律の制定権力を保持し、立法府たる国会はその使命を果たしていない。そのもっとも露骨な例がネット選挙をめぐる問題である。いま多くの人は「ネット選挙は禁止」されていると考えているが、その根拠は自治省(平成8年当時)の解釈に過ぎない。
▽「公職選挙法とインターネットに関する質問について

最大の問題は、候補者の自粛である。殆どの選挙候補者は、選挙管理委員会や警察からの警告を受けてネット選挙を止めるか、始めから自粛している。公職選挙の候補者とは、近い将来立法府の一員となる者のことを指す。その候補者が、「法の支配」を理解せず、法解釈すらできないことが、わが国の現状をよく表しているのではないだろうか。官僚支配を打破してくれるのではないか、と国民が期待する「日本維新の会」も公約(維新八策)において「ネットを利用した選挙活動の解禁」を打ち出しているが、根本的に認識が誤っている。

わが国における刑事裁判の有罪率は99.8%と云われる。これは、検察が「こいつは確実に有罪にできる」と考えなければ起訴しない、ということを意味する。起訴されないということは、法的に言って「完全に無罪」である。

前回の記事に書いた通り、私は当時として活用できるすべてのネットツールを意図的に利用した。動画中継を通じて支持も呼びかけた。これで起訴できない以上、ネット選挙が罪に問われることは無い。これによって不条理な「空気の支配」が打破されることを望む。ネット選挙は解禁された(というか元々禁止されていないことが証明された)のである。

本山 貴春
特定非営利活動法人ディベイトジャパン
専務理事