領土問題と大企業の問題

藤沢 数希

2012年8月15日に、香港の活動家が尖閣諸島に上陸した。海上保安庁は、活動家を逮捕し強制送還するのだが、この様子が中国で生中継された。9月10日には、民間の日本人が私有していた尖閣諸島を日本政府が買い上げて国有化することが閣議決定され、これを中国のメディアが大々的に報じ、中国では過去最大規模の反日デモが繰り返されることになった。これらのデモは中国に工場などを持つ日本の企業にも大きな影響を与えている。また、日本でも反中デモが起こっている。


領土問題は外交的に「話し合い」で解決したいが、主権を持つ双方が領土を主張しているのだから、究極的には武力解決しかない。つまり殺し合いをして、勝ったほうが領土を得るのだ。古今東西、多くの戦争が領土問題が引き金になってきた。領土問題は、経済合理性と言うよりも、双方の面子である。実際に、戦争になれば、双方にとって大きな損失となる。さて、筆者はここで専門外の国防や外交を論じたいのではない。筆者が尖閣諸島を巡る騒動から思ったことは、このような不毛な領土問題のミニチュアは、大企業や官庁のような大きな組織で毎日見ることができるということだ。

大企業では、一つひとつの決定で各セクションの利害が鋭く対立する。官庁も同じだ。ここでは、各セクションは自らの利益を最大化するために、組織全体の利益は二の次になるか、無関心だ。また、セクション内部では、同僚同士がやはり争い、上司と部下が対立したりする。こうした大企業内部での対立は、領土問題が究極的には武力でしか解決できないように、より大きな力による強制でしか解決できない。つまりより上位のマネジメントによる決定ということで、最後はやっていくしなかい。上の命令に従わなければクビにする、という武力だ。

しかし、武力が最終手段であるように、上位のマネジメントによる命令もやはり最終手段だ。よって、だらだらとした政治闘争が各セクション間で続くことになる。こうして組織は疲弊していく。また、こうした社内政治を無視した大きな決断は、まさに社内政治を上手く渡って偉くなったマネジメントにはできない。大企業とはこのように「非効率」なところなのだ。それでも大企業が存続するのは、そういった非効率を、分業化、大きな組織であることの信用、ブランド力などのメリットが上回るからだ。暗黙の政府保証レントシーキングは、明らかに国民の利益に反することだが、大企業にとってはメリットでもある。

ベンチャーは良くも悪くも社長による独裁制なので、こういう問題はずっと少ない。個人事業主になると、そういった問題は存在さえしない。つまり、社内分業や大きいことによる信用がそれほど重要ではない仕事は、本質的に小さな組織のほうが効率がいいことになる。そして、IT革命により、企業内で社員が分業しなくても、多くの仕事が社外にアウトソース可能となった。筆者は、いいソフトウェアを作ったり、いい資産運用というクリエイティブな仕事は、官僚的な大きな組織には向かないものだと常々思っている。それは、大企業がたくさん新卒を雇って面白い小説を書かせたり、いい音楽を作ろうとしているようなものだからだ。やはり21世紀は個人の時代なのだ