日本行政の不動産政策はおかしくないか? --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

日本の不動産絡みの話を2題ほど提供したいと思います。

まず、日本でワンルームマンションが嫌われているという話。自治体が建築許可の基準を厳しくした為に1990年には年間10万戸も供給されていたものが、2011年には僅か4000戸しか建築されていません。需給関係から見るとワンルームマンションだけは地価の下落にも拘らず、直近2年では価格が上昇しています。


ワンルームマンションは少子化、晩婚化を考えれば需要は拡大するはずでそれを行政側から制約をかけてしまいましたから値上がりするのは当然かと思います。行政側がワンルームを嫌う理由は「ウサギ小屋」イメージの日本の住宅を改善したい点や近隣住民との不和が上げられているようです。よって投資家の観点からはワンルームマンションは今後、絶好の投資対象ということになるはずです。

「ウサギ小屋」の話については今更何を、という気持ちがあります。むしろ、カナダの住宅を見れば不動産価格の上昇と戸当たりの居住人口が減少していることもありマイクロユニットへの需要は一定してあります。もちろん、当地でも狭小住宅への社会的議論はありますが、居住者がそれだけのスペースしか要しないケースがあるという利用者からの観点に立てば日本の「欧米並みの広い住宅を」という政策はおせっかいだと思います。

また、収入が限られる中で持ち家という夢があるとすれば都心で1000万円台で買えるマンションは狭小であったとしても選択肢として重要な意味を持つと思います。

近隣との問題については投資目的の所有者が賃貸に出した際の問題という別事情だと思いますので行政で制限をするのは如何かと思います。カナダでは賃借人の不手際は所有者に跳ね返る仕組みですから日本でも不埒な賃借人がいる場合、所有者にその責任を負わせるような仕組みを作ることが重要だと思います。

日本の場合、人の勧めに従って無知のまま、投資用物件を購入しているケースが多いのではないかということです。近隣との問題が生じても「私は何も知らないから」の一点張りということも間々あるかと思いますが、これこそ今後、改善すべき最重要課題だと思います。

更には日本はシェアハウスという建築基準の上ではカテゴリーがないにも拘らず、急成長している分野があるということを踏まえ、こちらの法制化も急ぐべきだと思います。役所が後手だというのはまさにこの点だということです。

2題目ですが、高齢者向け住宅が都心に足りないから郊外に移住を促進させるという話です。地方都市がそれを受け入れる「アメ」として医療や生活保護の費用、更には施設の整備費の一部を送り出す側である都市が負担するという有識者検討会が開始され、年内にも纏め上げるそうです。

これも私から見れば役所の勝手な論理で高齢者の本当の気持ちを考えていない発想であります。私が高齢者住宅の開発を検討した際思ったことは高齢者は生まれ育ち、慣れ親しんだ土地に非常に愛着があり、出来ればそこから動きたくないと思っていることであります。

次に高齢者を持つ家族も当然ながらその近辺などに住んでいることが多いわけですが地方に動いてしまっては家族の面会が激減するといわれています。当然ながら高齢者は寂しい思いをするのです。

更には高齢者が知らぬ土地、知らぬ人たちに囲まれた場合、ストレスなどで寿命が短くなるという話も聞いたことがあります。これは学説的に証明されているかどうか分かりませんのでそのまま鵜呑みにして欲しくはないのですが、地方に移せば環境が良く、安価で広いところが提供できるというのは本当の意味で高齢者の立場に立っていない発想のように思えてなりません。

戦前、戦後それぞれに日本が恐慌状態になったとき、日本人の海外移住作戦を政府が主導したことがあります。まさに面倒見切れないから外に追いやるという政策ですが、今回の記事を見てそれと同じだ、と感じた人もいるのではないでしょうか?

ちなみ「戦後のそれ」とは1986年の通産省発のシルバーコロンビア計画で致命的な失敗に終わっております。

行政と不動産を考えたとき、私の知る限り、日本の近年の歴史に於いて不動産政策で正しかったことは余りなかったような気がしております。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年10月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。