10月末、厚生年金基金の今後をめぐって大新聞が方向性の違う記事を相次いで載せた。10月28日に日経新聞が「10年で廃止」と書くと、翌日の29日に朝日と読売が「存続の道も」と、既定路線をひっくり返すようなことを書いた。
実際は、11月2日、厚労省の専門委員会は、厚生年金基金を10年で廃止する「試案」を出した。日経が正しかったのだ。では、朝日と読売は間違いだったのか。それについては、厚生労働省が考えていることとしては間違いとはいえないというあいまいな言い方をしておこう。
厚労省の担当課は、民主党と自民党に二枚舌を使っていた。民主党からの情報で書いた日経が結果として「試案」の正しい内容を伝えたのだった。一方、自民党は厚年基金の完全な廃止をしないよう求めており、厚労省はそれに沿って議論を進めるかのようなことを説明した。それを伝え聞いた朝日と読売は試案とは違うことを書いてしまった。
もっとも、今回の試案は議論のたたき台なので、これが結論というわけではない。専門委員会は年明けまで議論を続けることになっているので、最終的には違う結果が出る余地がある。とにかく、それまでは結論を持ち越したいというのが厚労省の考えていることだろう。
こうした問題は、政府のあちこちで起きている。野田政権は衆参がねじれているだけでなく、圧倒的な勢力を占めていた衆院でも過半数割れが近い非常事態となっている。おまけに「近いうち解散」を約束させられ、国会議員は浮足だっている。国会の同意人事も通らないため、原子力規制委員会のメンバーを正式決定することができず、公正取引委員会の委員も委員長を含む2人のポストが決まっていない。この状態で国会を開いても何も決められない。日本の政治は機能麻痺になってしまった。
霞ケ関はこの状況を敏感に察知しているため、自民にも民主にも調子がいいことを言って、問題を先送りする選択をしているといえる。このままでは、衆院を解散するまで、重要なことは何も決められず、来年度予算の編成さえ危うい可能性が出ている。
一方、世界経済の停滞で日本企業も軒並み赤字決算を強いられる状況になっており、景気は明らかに減速している。政府が身動き取れないため、日銀の金融政策に期待を寄せたが、今回の緩和策は不発に終わりそうだ。経済が動いていないのに、資金供給だけ潤沢にしても、使う人はいないので、デフレを止めることさえできない。
私は、野田政権の全てを否定するつもりはない。例えば、冒頭の厚生年金基金の問題は、是非とも廃止すべきだと考えている。それでも、いまの機能不全は無視することができない。こんな状況を作った責任は野田首相にある。政府を少しでも動かすために、野田首相にはそろそろ決断してもらう必要がある。年内にも衆議院を解散して信を問うべきだ。厳しい状況の中、これまでよく頑張ってくれました。でも、これ以上続けると、国民生活に実害が出ます。
杉林 痒
ジャーナリスト
編集部より:この記事は「先見創意の会」2012年11月6日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。