おもしろい取材を受けた。
私は、いつも駅の改札口で待ち合わせ、駅構内の喫茶店で打ち合わせをする。そのため、初めてお会いする人は、ちょっとばかりどこにいるのかと、ぐるぐると見渡すが、大抵の場合は、すぐにわかる。先方は私の顔をご存じのことが多く、私も待っている人特有の雰囲気で見つけられるからだ。
ゲームの技術やテクニックを社会的に応用する方法として知られるようになった「ゲーミフィケーション」を学生さんが取材しているということで、何となく受けていた。
ただ、今回取材に来たのは、ちょっとばかり背の低い目がくりっとした眼鏡姿のかわいらしい女子高生だったので戸惑った。天井千裕さん。聞くと高校一年生という。バンダイナムコゲームズのRPG「テイルズ」シリーズが好きで、PS3はハードディスクレコーダーにしていて深夜アニメが詰まってる。オタクが日常化した今日日の女の子らしく、オタクっぽい感じはまったくしない。
1ヶ月ほど前に面識のない高校の先生から、学生が取材に行きたいというので、時間を作ってもらえないだろうかとお願いがあった。開智中学高等学校の社会科の先生だった。探究活動という総合学習があり、その一環でフィールドワークを行っているのだそうだ。
まともにメールを読んでなかったせいかもしれないが、取材に来る学生は、てっきり、男子学生だと思っていた(ゲームに関心があるのは、男子が圧倒的多数なもんだ)。ついでに、先生同伴だと思っていた(手取り足取りなゆとりなもんだ)。もしくは、複数人だと思い込んでいた(日本人らしく、一人だと怖いのが嫌なもんだ)。
生徒が希望する相手へのアポイントだけは、先生がつけるものの、質問内容を何をするのかも、何のルールもなく、生徒に完全に任せて、まったく知らない町のまったく知らない人物にインタビューにいかせる。おもしろい教育方法だなと思った。
■自分の好きなゲームと社会問題とを結びつけた発想
「NHKスペシャル 世界ゲーム革命」(NHK出版)の内容をまとめた本を通じて、ゲーミフィケーションを知り、私の名前を見つけたようだった。この本は、10年12月に放送されNHKスペシャル「世界ゲーム革命」と、その後編というべき未来のゲームについて深く探っていく拡大されたインタビュー版のNHK BSハイビジョン特集「ゲームレボリューションⅠ,Ⅱ」と合わせてまとめられた本だ。BS版でゲーミフィケーションは紹介されている。ただ、不幸なことに、直前に起きた震災の影響で、変則的な放送にならざるえなかった。そのため、優れた内容なのにあまり多くの人に見られていない。様々な理由でオンデマンド化もなされていないために、本当にもったいないことになっている。ただ、その内容をまとめられた書籍を通じて伝わっている人もいるんだなと思った。
天井さんは、労働問題に関心を持っていて、現在の日本が抱えているフリーターに向けてゲームを作れないかというテーマを持ってやってきた。自分の好きなゲームと、社会問題とを結びつけて考える事ができる、というゲーミフィケーションというコンセプトに出会ったときに、自分の好きなことと組み合わさると感じられたので、とても可能性を感じたのだそうだ。
まず、議論を進めるための土台として、フリーターを「モラトリアム型」と、「夢追求型」と、「やむを得ず型」とに分類し、それぞれの課題に合ったゲームが作れないかと考えてきた。もちろん、高校一年生の知識なので限界があるが、鋭さも感じた。
例えば、モラトリアム型向けゲームとして、
「ボランティア活動などをゲームサイトに載せ、それに参加した人の写真などの証拠、コメントを載せてポイントを稼ぐ」という提案をしていた。
これは本質的なところを突いていて感心した。もちろん、話をしながらゲーミフィケーションは動機付けのためには役に立つ一方で、そうしたゲームをバランスをとって設計することは簡単ではないといった説明をしていった。ただ、
「【ボランティア活動】などを【ゲームサイト】に載せ、それに参加した人の【写真などの証拠、コメント】を載せてポイントを稼ぐ」
の【 】部分の中身を変えてしまえば、ゲームっぽい要素を持つサービスができる可能性があることには気がついたようだった。そして、すでに社会の中には、たくさん同じようなサービスが存在していることも。
私が例としてあげたのは、読書メーターというサービスだ。自分の読了した本を登録していき、何日に何ページ読んだという統計データや、感想を書けば他の人と比較でき、もちろん、イイネボタン(このサービスではナイス!ボタン)もある。
彼女は、読書日記のようなものを中学生のときにつけていたことがあったようなのだが、自分の感想を書いてもほとんど誰も読んでくれないだろうということで、やらなくなってしまったという経験を話してくれた。彼女は、まだ、ソーシャルネットワークといったものを利用していない。iPhoneを持っていたが買ってもらったばっかりで、まだ、使い方をよく把握できていないと話していた。
だが、フィードバックや、ソーシャル要素が入ると、サービスの意味が変わってくることにすぐ気がついたようだ。
天井千裕さんが作成していた仮説まとめ。懸命にいろいろなことをメモして書き込んでいた。
■今の時代に合った自発的能力を育てる
発表は来年2月までにまとめて、新しく一年生になる学生に向けて行うのだそうだ。この授業の目的は、型にはまっていない学生を育てることだろう。
今、彼女が持参していた依頼書を読んだ(面倒くさいので読まなかったのだ)。こう書いてあった。「自分で立てた疑問を基に、仮説を設定し、その検証を行うべく、首都圏の範囲内で調査対象地域や訪問先をきめ、行動計画を立てて実行するもので、問題発見能力や問題解決能力の育成を意図しております」
学習が進むのは自分に関心があることを追求しているときに圧倒的に進む。知らない人と会っていくことには緊張もあるだろうが経験となり、学校では得られない知識を外で学習する。自発的に考えるという発想に、早くに慣れていくことで、今の時代に合った自立できる人間に成長していける可能性は高まっていくのだろう。
さて、彼女はどういう人に成長していくのだろうか。大学に行くとして、社会に出てくるまで、あと6年ちょっとの間(学生にとっては長い時間だが、社会人にとっては短い時間だ)に、どう成長していくのだろうか。案外と日本を変えていくような種は、こういう形で、ちゃんとまかれているのかもしれないと思った体験だった。また、こういう形でのちょっとした社会貢献は悪くないものかもしれないな、とも。
新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT),ライター
@kiyoshi_shin
めるまがアゴラにて「ゲーム産業の興亡」や、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通ブログ「人と機械の夢見る力」を連載中