一昨日の記事の訂正:第7艦隊の戦術核は米軍再編で退役し、日本の領海に核を「持ち込む」必要はなくなったようだ。むしろ問題は「持たず、作らず」のほうだろう。中国の脅威が大きくなる一方、米軍再編でアジアにおけるアメリカのプレゼンスが低下する中で、いつまで核の傘に頼ることができるのだろうか。アメリカ陰謀論者のいうのとは逆に、アメリカに見捨てられるリスクが大きくなってきたのだ。
その日にそなえて日本も核武装すべきだという議論があるが、これは現実に可能なのだろうか。法的には現在の憲法でも核兵器を保有できるというのが政府見解だが、これは核拡散防止条約違反なので条約を脱退しなければならない。アメリカは日本の核武装に強く反対しているので、それは日米同盟の破棄につながるだろう。本書は、それを実際にやったらどうなるかというシミュレーションである。
在日米軍の機能を代替する直接経費だけで年間4兆2000億円だが、経済的な間接経費が20兆円にのぼると推定している。後者は日米同盟を破棄するとアメリカに敵性国家とみなされ、貿易や投資が途絶するという想定にもとづいており、それを日米同盟の機会費用と考えるべきかどうかは疑問だろう。
しかし直接経費だけでも現在の在日米軍関係費4300億円の約10倍であり、しかもアメリカの核の傘を失う。独自に核武装するコストは、イギリスの例では年間3000億円程度だが、自衛隊の抑止力は米軍よりはるかに劣る。核弾頭をつくることはむずかしくないが、それを搭載した兵器を開発するには3~5年かかるという。
本書の結論は、日米同盟を解体して自主防衛する直接経費は不可能な額ではないが、現在の抑止力を維持できないので日米同盟は費用対効果が高い、というものだ。したがって当面は同盟の維持が経済的だが、それが独立国として望ましいかどうかは別の問題である。核戦争になった場合に、アメリカが自国が報復されるリスクをおかして日本を守ってくれる保証はない。
日米同盟は60年以上続いているが、日英同盟は20年しか続かなかった。歴史上100年以上続いた同盟関係はないので、日米同盟が今後も長く続くとは限らない。核兵器を米軍が持ち込む必要はないが、それを日本が持つことや作ることを排除する理由はない。そのために原子力技術も必要だ。核武装について考えることは、「脱原発」などという下らない話よりずっと重要である。