「衆院選の結果が楽しみ」というのは不謹慎か?

松本 徹三

混乱の極みの中での「師走選挙」の結果がどう出るか? 例えその後に地獄が待っているとしても、やはり今から「怖いもの見たさ」の気持が抑えられない。子供達や孫達の将来がかかっているのだから、こんな事を言うのは不謹慎と言われても然るべきだが、仕方がない。

大方の見るところでは、自公政権が復活するだろうという事だが、そう考えると絶望的な気持になる。自民党への信頼は、小泉退任後に急速に低下し、遂に政権を明け渡すに至ったが、何故こういう事態を招いたのかの反省は全く出来ていない。従って、当然の事ながら、「新しい自民党」のイメージも出来ていない。にもかかわらず、「政権への復帰」があたかも当然の如く見られているのは、対抗軸の民主党の状況があまりにも酷く、「既に自壊した」とさえ見られているからだろうが、これでは国民があまりに可哀想だ。


安倍政権は、以前もそうだったが、「国家の尊厳」を前面に押し出して、これがどんどん失われていっているかのような現状に苛立っている人達の支持を得ようとしている。尖閣問題を契機に「中国の覇権主義」に対する反発が相当高まっている現状では、これはある程度成功するだろう。

その一方で、安倍政権の経済政策は何とも粗雑だ。日銀を悪者にして政治力でこれをねじ伏せ、「日銀に無制限に建設国債を買わせれば、金が市場に出回り、企業も家計も大いに金を使うようになり、デフレからの脱却で雇用も増える」と考えている様だが、現在でも金融機関は健全な借り手がいない為に大量のカネをやむなく日銀の当座勘定に蓄積している状態だから、そんなにうまく事が運ぶ筈はない。

地方経済の要である「建設業界」等が潤って、局所的且つ一時的に不況感が払拭される事はあっても、長期的に見れば、これはむしろ産業構造の改革を遅らせる結果になり、更に膨らむ財政赤字と国債残高によって、やがては我々の子供達や孫達が茫然自失する事態を招くだけだろう。

「国土強靭化計画」等は、かつての田中角栄の「列島改造計画」の焼き直しと言ってもよいが、後先の事は無視した「目先の人気取り」がミエミエなだけに、気分が悪くなる。「将来の災害に備えて老朽化が進む国家インフラを見直す」という事自体は悪い事ではないが、それならそうで、財政健全化と両立できるようなもっと着実な計画にすべきだ。

ある人のTwitterで知ったのだが、かつて小泉首相は、予算委員会で質問に立ったある議員が「デフレの克服なくして構造改革なし」と言ったのに対し、「構造改革なくしてはデフレ克服もないのです。間違ってもらっちゃあ困る」と答えている。これは至言だ。通貨政策だけで停滞している経済を活性化できるのなら、こんな楽な事はない。政権の座に誰がつこうが、これをやらない理由はないのだ。

しかし、現実には、実際に企業を運営している人達が事業の前途に自信を持って積極的に投資を拡大していく以外には、デフレ脱却の特効薬はないのだ。事業の前途に自信が持てるかどうかには、海外市場における競争力が大きな鍵になるが、こうなると、日中関係の安定化やTPPへの参画など、日本の外交政策も大きく関係してくる。安倍さんの話を聞いている限りでは、その辺への言及は全くなく、あまり希望は見えてこない。

さて、「日本維新の会」と「太陽の党」が合流するというニュースには驚いた。まさに野田総理が狙った通り、電撃的な解散で慌てたのではあろうが、「選挙に際しての協力」だけでなく、「党の合併」まで行ってしまったのは驚きだ。石原さんは「エネルギー政策やTPPなどは些細な問題」とまで言い放っているが、それなら「そもそも政治とは何なのか?」という疑問が出てくる。

石原さんにすれば、「憲法を改正して国の形を根本的に改める」事こそが大事であり、その為には「今なお何がしかの力(人気)がある(と思っている)」自分が先ず先頭に立ってかき回し、後を橋下に委ねるという考えなのだろうが、私はこれでは却って遠回りになると思っている。私とて「憲法改正は是非とも必要」とは考えているが、その為には時間をかけて周到な手順を踏む必要があると思っている。先のない石原さんが「生き急ぐ」のは理解出来るが、まだまだ先の長い橋下さんには「生き急ぐ」理由はない。

海外でこのニュースに接し、特に、この党が取り敢えず「石原総理実現」を目指すと聞いて、私は「あ、これで橋下さんも終わったな」と思った。私は、これまでは、次の選挙は取り敢えず「維新の会」に投票しようと考えていたが、「石原総理実現」に手を貸す積りは毛頭ないので、この考えは取り敢えず捨てた。他にも同じ様な人はいると思う。

帰国して詳細を知ると、政策に関しては「太陽の党」の側が全面的に譲歩したようで、合意された個々の政策には全く異論はない。だから、「今回の合併は最初に思ったほど悪い事でもないのかな」と、若干は思い直している。しかし、それでも、諸外国に対する(中・韓のみならず、米国に対しても)橋下さんのイメージが悪くなる事は避けられないだろうから、あまり嬉しくはない。

このニュースに一つよい事があるとすれば、安倍自民党が選挙で勝ちすぎる事を防ぐ事ぐらいだろうか? 安倍総裁-石破幹事長は右派(タカ派)だが、石原さんはそれ以上だから、ここで票は割れる。(私は、橋下さんは本来は別に右派ではなく、「是々非々で筋を通す人」と見ているが、外交面や安全保障面では相当な右派だと思っている人も多いだろう。)

実は、今日一日、色々な人と話したところでは、野田総理の人気が意外に高い。とりわけ、今回、「早期解散」の約束を守る見返りに、「議員定数の削減」についての確約を自民党に迫った事については、多くの人が高く評価していた。また、個々の政治家の資質を話している中でも、野田さんを助ける立場にいる細野さんや枝野さんの事を悪く言う人はいなかった。

内閣支持率にも見えるように、民主党の評判は地に落ちているが、これは、もともと考えの異なる人達を無理に一つに纏めた事に起因する「内部矛盾」と「それがもたらす混乱」によるところが多く、「党が半分に割れても別に構わない」と野田さんが腹を括れば、ある程度解消できる事だとも言える。野田総理も、興石幹事長に頼って最後まで離党予備軍の繋ぎ留めに腐心していたわけだが、「解散」という伝家の宝刀を抜いた事で、この未練も断ち切ってしまったかのように思える。

民主党の中にいる人達にとっては「党の結束」は重要かもしれないが、我々一般市民から見れば、そんな事はどうでもよい。かつて「マニフェストの見直し(自己否定)」の可否を巡って、党内が大きく割れた時も、党内にいる人達とは異なり、国民の多くは「選挙の時に何を言っていたか等なもうどうでもよいから、間違っていたと分かった事はすぐに正して、国民が納得できる事をやって欲しい」と思っていた筈だ。政治の世界の中にいると、ついつい「政局」の方が「政策」より重要に見えてしまうのだろうが、国民にとって重要なのは勿論「政策」の方だ。

そして、こと「政策」という事になると、現在の野田民主党が言っている事は悪くない。少なくとも現実的だし、筋も通っている。「維新の会」は「民主党政権打倒」を標榜しているが、個々の政策を見ていくと、「政策的にはむしろ一番近い」と言ってもいいようにさえ思える。少なくとも「TPP推進」と「脱原発依存」では、自民党より民主党の方が違いは少ないようだ。

民主党は、ここまで来れば、むしろ「健全野党」或いは「連立政権党」を目指した方が良い。現在の自民党が看板にしている「国土強靭化計画(土建資本主義の復活)」には「財政健全化政策」をぶつけ、安倍、石破、石原の「対中強硬路線」には「『国家の威信の堅持』と『日米同盟の深化』に裏づけされた『現実的な対中友好路線』」をぶつけて、堂々と選挙戦を戦えばよい。

批判を覚悟で敢えてもう一度言うが、何れにせよ今回の選挙の結果は楽しみだ。日本人の政治的成熟度がここで見て取れるだろうからだ。