米テレビ局を震撼させた2件の訴訟(その3)

城所 岩生

まねきTVの再挑戦
昨年1月、最高裁で敗訴したまねきTVは、ビジネスモデルを変更してサービスを継続している。その1のとおり最高裁は、「インターネットに接続している自動公衆送信装置である、ベースステーションに放送を入力する行為は送信可能化にあたる」とした。そこで、ユーザにNTTのフレッツテレビ・サービスに加入してもらい、終端装置をあずかるだけの ハウジングサービスに切り替えた。 


自ら放送の入力をしないことで、テレビ局の持つ送信可能化権を侵害するおそれを回避したのである。しかし、フレッツテレビの使用料などが上乗せされたため、ユーザの負担は月10000円を超え、それまでの倍以上になってしまった。

その1で紹介したエリオは、ニューヨーク地区の20局以上の地上波放送を月額12ドル(1000円)で最大5台の端末で視聴、録画できる。まねきTVのユーザはエリオに比べると10倍以上の負担を強いられるわけである。

それでも東日本大震災後には、まねきTVが保管していたベースステーションのランプは点灯し続けた、つまり視聴され続けたそうである。海外在住の日本人を中心に日本のテレビを視聴したいというニーズは根強いのである。

ユーザが勝ち組の米国と負け組の日本
エリオはまだ仮差し止めが地裁で却下されただけなので、先行きどうなるかはわからない。しかし、仮にエリオが敗訴して、不幸にもサービス停止に追い込まれたとしても、アメリカのユーザにとってそれほど不都合はない。4大ネットワーク局がすでに番組のネット配信を積極的に行っているからである。

日本では県単位に免許が与えられている民放地方局が、在京キー局の系列に入り、キー局の番組に自ら獲得したローカルスポンサーの広告をつけて放送している。番組のネット配信が進み、地方住民もキー局の番組が視聴可能になると、地方局の番組を視聴しなくなる。視聴者減は広告料収入減につながり、地方局の経営を圧迫するので、地方局を系列に持つキー局も番組ネット配信に消極的だった。

エリオ以前にもまねきTV類似のサービスは米国に存在したが、訴訟すら提起されなかった。日本ではまねきTV同様、ベンチャー企業の提供した類似のサービスはことごとく、テレビ局の訴訟攻勢の洗礼にあった。

訴訟社会の日米逆転現象を生んだ理由は、テレビ局が県域免許制に依拠した古いビジネスモデルを崩されることをおそれたからである。特にまねきTV事件ではテレビ局は仮処分訴訟も含めると5戦全敗だった。最高裁の逆転判決で、あきらめずに戦い続けた甲斐があったわけだが、割を食ったのはユーザである。

規制産業の放送業といえども常に異業種からの新規参入による競争の脅威にさらされている米国に比べると、日本の放送業界の過保護ぶりが浮き彫りになる。県域免許制という護送船団行政、そして、1対1の通信でもネットを介せば公衆送信であるとされた、まねきTV最高裁判決に見られるように、著作権法を権利者よりに解釈する裁判所に守られて、新規参入が難しく、競争原理が働かないからである。

そのツケは便利な新サービスの開発が遅れ、そうしたサービスを享受できない、われわれユーザに回ってきている。それは結局、若者のテレビ離れを加速させ、テレビ局の首を絞めることにもなるのだが・・・

城所 岩生