マニフェストの読み方 --- 城 繁幸

アゴラ

解散が決まって政局がにわかに活気づいてきた。特に第三極を巡っては、乱立気味の小党間でイニシアチブ争いが過熱しているようだ。

そんななか、とりあえず維新と石原新党(元たちあがれ日本)の合流が決定し、橋下氏と石原氏が共同代表に収まった。さきに石原新党との合流を発表していた減税日本はあっさり切り捨てられ、維新との連携が濃厚だとされていたみんなの党とは今のところ選挙協力どまり。そして小沢のおの字も出ていない。

メディアの中には、「維新と石原新党は政策が大きく異なるからこれは野合だ」とか「いずれ他の小政党も参加するはず」という声も聞かれるが、筆者の意見は少々異なる。というわけで、いい機会なので、筆者が政党のマニフェストをどう眺めているか紹介しておこう。


・マニフェストには2種類ある

実は、右や左といったイデオロギーを抜きにして、政党のマニフェストは大きく2種類にわけられる。

1.現実型
まず、政権を取った後にどういう具合に現実の政策に反映させるかを意図して作られているもの。広く国民全員の審判を仰ぐもの、と言い換えてもいい。

2.ニッチ市場向けに絞ってる型
それからもう一つは、現実の政策はまったく想定せずに、何らかのイデオロギーなりスタンスなりに寄り添うことだけを想定して作られているもの。
こちらはハナから特定のグループの支持を取り付けることだけを意図しているので、一般受けはしないし、そもそも受けるつもりもない。

要するに政権参加の可能性が常にある自民や民主は実現性を考えた政策を作らねばならないが、共産党あたりなら往年のファンが喜びそうなことを書いておけば数議席は確保できるということだ。

そういう目で見ると、政党は2つのグループにわけられる。

1.現実型
民主、自民、公明、維新、たちあがれ日本

2.ニッチ型
社民、共産、国民新党、国民の生活が第一、減税日本

公明やたちあがれは最初から連立狙いなのでマニフェストが地味だが手堅い。維新は(どこまで本気かわからないけれども)政権獲得を目指しているらしいので、大筋は外していない。

ニッチ型は言うまでもないだろう。長年の支持者や特定郵便局、農協が喜ぶようなことしか言わないと割り切っている政治家の集まりだ。

・実は似ていた維新とたちあがれ日本

さて、そういう目で前回参院選時のマニフェストを眺めてみると、同じ現実型であるだけでなく、財政や社会保障分野において、実は維新とたちあがれ日本は非常に親和性が高いことがわかる(消費税は12年度から引き上げ、ゆくゆくは二桁に、給付付き税額控除で社会保障を効率化、門戸は拡大化しつつ、法人税は10%ほど引き下げて企業競争力強化など)。

ちなみに、筆者も参加する若者マニフェスト策定委員会内での政党マニフェスト評価では、この時のたちあがれ日本は、財政・社会保障分野で第二位だった。とかく80年代風の公式サイトや平均年齢80歳前後という点でネタ扱いされることの多い同党だが、主張はいたって現実的だ(ちなみに筆者は比例でたちあがれに投票)。

確かに原発政策やTPPを巡っては相違もあった。だが、ここで重要なのは、2党がどこまでこれらの政策にコミットしているかだ。両党が1番、つまり政権に何らかの形で参画して現実の政策に反映させるスタンスである以上、この両政策において大きな違いはありえない。

たとえば、原発をどうするかというテーマでは数十年後の努力の目標レベルでは差はあっても、現実に病院や工場が停電するリスクを背負ってまで即時停止&脱原発を貫徹する政治家などいないから。その点、そういうゴリゴリの支持者だけに特化している社民や共産相手なら歩み寄れはしないだろうが、その他の政党同士ならいくらでも妥協点は見いだせるだろう。

逆に、同じ理由から、筆者は第三極の輪の中に、小沢新党や新党大地や減税日本が入ってくることはちょっと想像できない。彼らはTPPや減税というシングルイシューのみに拍手してくれる層のテラ銭で存在しているのであって、それを捨てて全体の整合性を合わせることはありえないからだ。※

ところで「みんなの党」はどっちなの? と思っている人もいるかもしれない。彼らの掲げる小さな政府路線は評価できるけれども、彼らの主張の柱である「増税も社会保障カットもしない上げ潮路線」をみれば、残念ながら2番目に属する政党というしかない。彼らが維新と合流する可能性は限りなく低いというのが筆者の意見だ。

第三極は維新、石原氏を中心とし、みん党は距離を置いて併存。吸収されるにせよ落選するにせよ、その他の新党は今回の選挙で淘汰が進むというのが筆者の見解だ。

※ただ、小沢新党や減税日本は「テラ銭が少ない」と見れば、支持層を見すてて全面降伏してくる可能性はあると思う。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2012年11月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。