日銀が金融緩和に抵抗する理由 --- 岡本 裕明

アゴラ

日本銀行がこれだけ注目されるのも珍しいかもしれません。確かにアメリカで金融緩和を始めた頃から金融政策は各国中央銀行の腕の見せどころではありました。そしてアメリカではバーナンキ議長が、ヨーロッパではスーパーマリオことドラギ総裁がなかなかやり手としての手腕を発揮しております。一方、日本銀行の白川総裁は着任早々から大変優秀である、という評判はメディアのみならず財務省内部からも聞いておりました。


確かに見識といい、判断基準といい、なるほど、と思わせる政策で過去を乗り切ってきたと思います。事実、日銀の近年の歴史は超低金利政策や更なる金融緩和といった手法を用い、世界で始めて市場と対話した実績もあります。つまり、アメリカにしろ、ヨーロッパにしろ、長期にわたる超低金利政策は比較的歴史が浅いわけでその点、日銀が先輩であるわけです。

ところがアメリカ、ヨーロッパはその日銀の政策を手本にしながらも圧倒的な金融緩和を行い、且、低いインフレ率を保つことに成功しました。その間、日銀はインフレ恐怖症から抜け出せず、デフレのアリ地獄でもがいているわけです。もしも日銀が数年前からもっと大胆な金融緩和を行っていれば経済状況は変わっていた可能性はあります。

金融緩和は基本的には円安効果をもたらすのでもっと早い時期に思い切った金融緩和をしていれば70円台の円高を防げた可能性もあったのかもしれません。

今、自民党安倍総裁が盛んに日銀の背中をプッシュしています。この2ヶ月は民主党の前原大臣も政策会議に出席しながら政府としての更なる緩和への強力な後押しをしました。結果として先月は2ヶ月連続の金融緩和で直近では11兆円という微妙な追加緩和を示しました。

一方、白川総裁は安倍総裁の求める3%のインフレターゲットはバブル期ですら1.3%のインフレ率なのにとても、とてもという発言をしています。ましてや建設国債を日銀が買い取るというのはタブーであるとし、日銀の独立性を求めています。

このやり取りは実に興味深いと思います。この数日の株価の上昇は安倍総裁の大胆な金融緩和発言を拠り所にして円安、株高を演出しました。実際には安倍総裁が首相になったとしても主張している通りの緩和はないだろうとは見られているものの風向きが変わるという期待は高まっていることは事実です。白川総裁としては任期が4月ですからあと5ヶ月を残して政府に押し切られて思惑と違う政策を放ったとされないよう後進に対する遠慮があるかもしれません。

では、安倍総裁の求める大胆な金融緩和で何が起きるでしょうか?多分ですが、円は80円台より安い水準で定着するかもしれません。それを踏まえて輸出関連株を中心に株価上昇、ひいては株式全体が活況を呈することはありえます。これは金融緩和(QE1)後のダウ平均をみたらお分かりになるでしょう。ですが、この株高は決して金融緩和の効果ではなく、金融緩和することへの期待感である、ということです。

では効果ですが、銀行は国債運用姿勢を強めるはずですから国内民間部門への資金的緩和は少ないと思います。またメガバンクは国内向け小さな融資より東南アジアを含め、海外を通じた巨額融資の方が管理も楽だし、効率もよいのです。つまり、国内実体経済には金融緩和のおこぼれは少なく、デフレ脱却には繋がらず、日銀はこのあたりをよく理解しているはずです。

もしも本気でデフレ脱却を狙うなら、不動産が手っ取り早いのですが、不動産の法規制を少し変えるなどして一般庶民が不動産が欲しいと思わせるスキームを作ってみたらどうでしょうか?私なら究極の方法として相続にかかる不動産についての非課税化か大幅減税が圧倒的パワーあり、と思います。国税当局にすればとんでもない、と思われるでしょうけど、相続税がなかったり極めて軽減されている国は結構多いものです。民の努力で積み上げた資産を死んだら召し上げるというのは近代国家的発想ではないと思います。

つまり行き詰りつつある金融緩和政策は政治により救うことが出来るのであって安倍総裁が日銀に無理強いをするのは本筋ではないのです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年11月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。