今次衆議院総選挙には、11月24日現在で14党もの政党が名乗りを上げている。比例代表選挙もあり、どの政党に投票しようか悩む有権者も多いだろう。
悩むのも無理はない。ただ、多党傾向を批判してばかりもいられない。今次衆議院総選挙では、問われるべき争点も多いからだ。2つの争点(IとII)があって、それぞれに賛否が分かれているとすれば、Iに賛成・IIに賛成、Iに賛成・IIに反対、Iに反対・IIに賛成、Iに反対・IIに反対、と4つの意見を主張する政党(ないし政党群)が出てきても不思議ではない。例えば、TPP推進と脱原発をとってみてもよい。それだけではない。争点が3つになれば、賛否が分かれれば2の3乗で8つとなる。
ともあれ、多くの政党が名乗りを上げる中で、有権者が与えられるのは小選挙区で1票、比例代表区に1票、それだけである。この投票で何をどうしろというのか、と言いたくなる。この気持ちの捌け口をどこに向けたらよいだろうか。そこで、この思いをうまく選挙制度に反映できるようにするアイディアとして、「是認投票」を紹介したい。一見すると非現実的かもしれないが、そう遠くない将来に選挙制度改革として体現できるとよいと思う。
そもそも、現行の小選挙制度は、単純多数決投票である。投票者は、自らが最も好む(1位)候補者1人にしか投票できない。だから、最も好む候補者(ないし政党)と2番目に好む候補者とはあまり大差なく好んでいるという有権者がいれば、1票しかないからその気持ちを現行制度はうまく汲み取れない。また、上位3つの候補者(政党)までは当選しても許容できるが、他の候補者(政党)は許容できない、という認識をおぼろげながら抱いている有権者も、現行制度ではその気持ちをうまく表せない。
なぜ最も好む候補者(ないし政党)しか投票できないのか。ITが発達していなかった時代なら、開票の手間を考えるとそうせざるを得なかったかもしれない。しかし、今や電子投票の実用化も視野に入ってきた時代で、開票の手間はずいぶん省けるようになりつつある。
ならば、1度の投票で有権者の好み(選好)に関する情報をもっと集約する努力を払ってもよいだろう。政治学や公共選択論(政治の経済学)の研究者は、ITが発達する以前から、有権者の選好の集約について論理的可能性を検討し続けてきた。要するに、有権者が抱く候補者(ないし政党)に関する選好の情報を、最も好む候補者だけにとどまらず、2番目に好む候補者、3番目に好む候補者、…、最も嫌う候補者までも投票で表明できるならばどうだろうか。前述のように、最も好む候補者と2番目に好む候補者があまり大差なく好んでいるという有権者がいれば、自らの選好を投票でよりよく表明できることになろう。
ただ、多くの候補者をすべて順位づけられるほど選好を明確に持っている有権者ばかりではない。さらに、最も好む候補者と2番目に好む候補者を明確に順位づけられていたとしても、他の有権者の動向(いわば選挙結果の事前予想)から、自らが最も好む候補者が2番目に好む候補者に負けそうな情勢だとすると、本当は2番目に好むはずなのにわざと最も嫌う候補者として投票しようと偽る(戦略的投票)可能性もある。
有権者の選好について、現行制度のように最も好む候補者しか聞かないのも支障があるし、候補者に対する選好の順位をすべて聞き出すというのも支障がある。そこで発案されたのが、是認投票である。是認投票とは、各有権者が当選しても構わないと思う(是認する)候補者を何人でも投票できることとし、開票段階で最多得票の候補者を当選とする制度である。現実にある制度との対比でみれば、わが国の最高裁判所裁判官国民審査で「×」をつけるものの逆で、是認する候補者のみに「○」をつける投票制度、といえる。国民審査で何人でも「×」をつけてよいのと同様、是認投票では何人でも「○」をつけてよい。
こうすれば、最も好む候補者と2番目に好む候補者があまり大差なく好んでいるという有権者も、上位3つの候補者までは当選しても許容できるが他の候補者は許容できないという認識を抱く有権者も、是認投票でうまく選好を表明できる。「民意」をよりよく汲み取る選挙制度にするには、こうした工夫が必要だ。
他方、当選者を1人に限るのが問題だから、当選者を複数にすればよいとの見方もあろう。小選挙区制にまつわる死票への批判や中選挙区制復活論はその典型例である。しかし、1つの選挙区から複数の当選者が出て「民意」があいまいな形で議会に反映され、議会で意思決定が明確にできなくなる。多くの政党が議会内に存在して、連立政権になることで毅然たる意思決定ができなくなったり、様々な勢力に配慮するあまり歳出が膨張したりする弊害が世界的にも確認されている。選挙では、利害が対立する多くの有権者の中で、唯一の代表者たる勝者を選ぶことが重要である。是認投票は、1つの選挙区からの当選者を複数にして「民意」を汲み取ることの弊害を避けつつ、小選挙区制にまつわる死票の弊害も最も好む候補者しか投票できない仕組みを改めることで回避できる。
今後の選挙制度改革で、遠くない将来に、年齢別選挙区&小選挙区制&是認投票という仕組みが導入されれば、「民意」をよりよく汲み取りつつ明確な意思決定ができる制度的基盤の構築に貢献するだろう。
長くなったので、是認投票の他の選挙制度と比較した利点は、井堀利宏・土居丈朗『日本政治の経済分析』木鐸社に委ねたい。ちなみに、、井堀利宏・土居丈朗『日本政治の経済分析』木鐸社は、年齢別選挙区について1998年に初めて提言した書でもある。
土居丈朗@takero_doi