お札を刷ればデフレは止まるのか

池田 信夫

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経済学は物理学とは違って、専門家だけが理解しても意味がない。特に政治家が理解していないと、いくら高度な経済理論をつくっても役に立たない。ところが経済学者の多くは大学で教えていれば生活できるので、それを社会にやさしく説明するインセンティブがない。そこで去年のニコ生アゴラでは、3人の経済学者にデフレをやさしく解説してもらった。


「デフレはお金が足りないんだから、お札を刷れば止まる」という誤解は、安倍総裁を初め広くあるが、そんな簡単な問題だったらとっくに解決している。小幡積氏もいうように、問題は日銀の発行する通貨(マネタリーベース)が、銀行の貸し出しで市中に流通する資金(マネーストック)にならないことだ。それは資金需要がないからで、いくらお札を印刷しても銀行の中に積み上がるだけで、物価は上がらない。

しかし池尾和人氏もいうように、財政インフレは起こりうる。財政が苦しくなったら政治家が「中央銀行がお札を刷れ」というのはよくある話で、途上国では今でもインフレが日常的に起こっている。中央銀行の独立性はそれを防ぐために保証されているのだ。「多少インフレになったほうがいい」という人もいるが、通貨の信認が失われることは不可逆な現象で、取り付けのようなものだから、いったん起こると途中で止めることはむずかしい。

日銀が無理やり国債を買ってバランスシートをふくらませると、国債が暴落した場合のリスクが大きくなる。「国は倒産しないからいくら借金してもいい」という人は、銀行がいつまでも国債を買ってくれると想定しているが、小黒一正氏もいうように、あと5年ぐらいで国内の資金で国債がファイナンスできなくなる。そのときも日銀が通貨を発行して国債を引き受ければいくらでも借金できるが、銀行は逃げて国債は暴落する(金利が上がる)。

もちろん、そうならない可能性もある。安倍氏の思っている通りインフレが2%で止まればいいが、5%、10%・・・と加速したらどうするのか。邦銀のバランスシートの25%が国債だから、長期金利が5%になったら地方銀行はほとんど債務超過になる。取り付けが起こると、リーマンショックのように加速して止めることはできない。これはハイリスク・ノーリターンの賭けなのだ。