日経ビジネスに日本マクドナルドの原田泳幸社長のインタビュー記事があり、タイトルは「マック、崩れた『勝利の方程式』」。低価格商品を投入し、顧客層を一気に増やしたところでやや割高の新商品を出し、そちらに顧客の選択を広げ顧客の囲い込みと売り上げ増という方程式を作り上げたのがマクドナルドでした。
その手法で2004年に同氏が社長に就任以来成功し続けてきたのですが、遂にそれも通用せず、売り上げの伸びがマイナスに転じる状況になってきています。どうも記事からは努力してさまざまなマーケティングをしてもその効果がかつてほど継続しないというのが本音のようです。
一方24日の日経新聞の一面には吉野家が牛丼だけに特化した「専門店の専門店」を展開するとあります。そしてそれは究極の効率化で牛丼を250円で提供するというのです。一般店では380円だそうですからその差は実に34%にもなるのです。しかも同じ商品です。
私にはこの戦略はまったく理解不能です。吉野家は今やどこにでもあるわけでこっちの店なら380円、こっちなら250円となれば380円を払ったほうは損をした気になります。消費者心理は必ずマイナスインパクトとなり、結果として既存店の売り上げは下がったり、顧客流出に繋がることになりやすいと思います。
それにしても牛丼チェーンがここまでしてでも価格競争に踏み込まなくてはいけないのはマクドナルドのケースと同様、消費者がもはやすんなりと消費をしないということであります。常に「お徳感」を求め、それが充足されるときのみ支払いをするという精神的にエキストリームな状況に入っていているといって過言ではありません。
主婦が日々の買い物をするのにチラシを見て今日はどこどこで何が安いといって10円、20円の差を求めて自転車を飛ばして遠くまで買い物に出かけたりします。スーパーの戦略は目玉商品で客を釣り、ほかの定番商品で儲けるという戦略で、これは何十年と変わってません。
マクドナルドはまさにスーパーマーケットのお得感をマックの店で体現できるようにしたのです。コーヒーを安くしたり、無料にしてレギュラーの商品を買って頂くという訳です。そこには一応、利益が確保できる筋道があります。ところが吉野家「極」の場合には250円ポッキリで牛丼を二杯食べる人はまずいないわけですから利益を頂戴するスキームが存在していません。
消費マインドの落ち込みはデフレという言葉のみならず、売り手側の必死の価格競争によるものだと思っています。これを修正するには売り手、買い手双方のポジションの修正が必要です。まず、売り手は価格競争がもう出来ないという状況に落とし込むことです。それはひとつはインフレ、もうひとつは人件費の厳密な管理やサービス残業の撤廃です。これは厚生労働省が主管となって徹底的に取り締まると同時に被雇用者が労働基準監督署などに直接訴えられる手段を講じるべきです。
インフレについては円が安くなれば輸入品物価が上がってきますから多少影響は出てくるでしょう。
一方、買い手マインドはまずは自信を取り戻すことからかと思います。そのためには株と土地のミニバブルを作り出すことと消費を促進させるような税制の取り組みが必要かと思います。
日本人はもともと一歩上の生活を求めてきました。そしてそれに慣れ親しんできたはずです。今、「鳴くのを忘れたカナリア」と同じで「使うのを忘れた日本人」である、と思っています。
安倍総裁は日銀の金融緩和を、といっていますが、私はデフレ脱却には即効性はないと思います。今、株価が上がっているのも先日書いたように「期待」であって効果を受けた継続性のある結果ではないということを最後に付け加えておきます。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年11月30日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。