財政破綻は回避できるか
著者:深尾 光洋
販売元:日本経済新聞出版社
(2012-07-26)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆
安倍総裁の一知半解のリフレ論が混乱を引き起こしているが、著者はかつて『日本破綻』で、大規模な量的緩和とインフレ目標によってデフレを脱却すべきと説いた先駆者である。私も当時、研究所で彼の話を聞いて驚いたほどアグレッシブな政策で、今の安倍氏の話と似ている。
しかしそれから11年たって、こうした政策は「日銀の能力を買いかぶりすぎ」だったという。日銀が2002年から行なった量的緩和は、結果的にはデフレ脱却の役には立たなかった。本書の「補論」は日経センターのウェブサイトに掲載されているが、彼は量的緩和の効果をこう総括する。
米国のバーナンキFRB議長のように、「金融政策にはもっともっとやれることがあり、量的緩和や信用緩和政策には絶大な効果がある」と、いわば虚勢を張ることで市場の期待を大きくしておいて、緩和を実施してみせることが考えられる。私は、この効果を偽薬効果と呼んでいる。[しかし]効果があまりないことが市場に理解されると、それ以後の効果は大幅に削減されることになるだろう。
円安誘導やインフレ目標などの手段にも一定の効果はあるが、これまでにできることは日銀がほとんどやっており、新たに効果的な対策が打てる余地は小さい。著者が副作用の少ない政策として推奨するのは、マイナス金利である。これは預金に課税して投資を増やす政策で、日銀の超過準備に課税するとか、デンマークのようにCDだけに課税するなどの方法も考えられるが、政治的にきわめて困難で効果は限定的だ。
著者も指摘するように、日本経済の最大の脅威はデフレではなく、世界最悪の規模に達した政府債務である。ところが本書も予想したように、政治家は増税をいやがり、問題を先送りしようとする。今度の総選挙でも、財政再建の政策を掲げる政党はなく、脱原発とかTPPとか無意味な争点をめぐって混乱した議論が続いている。本書は、今の日本の財政・金融についての見取り図を示すパンフレットとして便利である。