活断層はなぜ今ごろ「発見」されたのか

池田 信夫

青森県の東通原発の断層調査を行なっていた原子力規制委員会は14日、「活断層の可能性が高い」という見解を発表した。これに先立って規制委は、福井県の敦賀原発2号機の断層も活断層だとの結論を出し、野田首相は廃炉になるとの見通しを示した。「活断層の上に重要施設を建ててはいけない」という耐震指針があるからだという。しかしそれほど重要な活断層が、なぜ発電所の建設後30年もたってから「発見」されたのだろうか?


この原因は、活断層の定義にある。1978年にできた最初の耐震審査指針では過去5万年以内に活動した断層と定義していたが、2006年の指針では、原子炉建屋などの重要施設を活断層の上に建ててはいけないと明記され、活断層の定義は「後期更新世以降の活動が否定できないもの」すなわち過去12~3万年以内とされた。

敦賀2号機は1982年に設置許可がおりたので、旧指針にもとづいて設計されている。今回、規制委が「活断層」としたのは「10万年前ぐらい」とのことなので、旧指針の定義では活断層ではない。つまり「あってはいけない活断層が見つかった」のではなく、活断層の定義を変更しただけなのだ。

こういう変更は珍しいことではない。活断層の定義については学問的な合意がなく、規制委は「過去40万年以内」に拡大しようとしている。それはいいが、問題は過去5万年以内という基準をクリアして建てられた敦賀2号機に、過去12~3万年以内という新基準を遡及適用して再稼働を禁止し、廃炉に追い込もうとしていることだ。

ニューズウィークにも書いたように、このような「事後法」は法治国家では許されない。耐震指針は原子炉を建設するときの基準であって、それを運転するかどうかの基準ではないのだ。法的には、すでに建設された原発の直下に活断層が見つかった場合に運転を禁じる規定はないので、敦賀2号機は適法に再稼働できる。

活断層は珍しいものではなく、日本列島には上の図のように約2000もある。その上に家を建てるのも自由だが、活断層の走っている土地は地価も安くなる。何も知らない人がその家を買ってから活断層が直下を走っていることを知ったとしても、家を取り壊すことはないだろう。5万年に1度のリスクも12万年に1度のリスクも現実には無視でき、家を壊すコストに見合わないからだ。

だから敦賀の問題は「活断層か否か」ではなく、30年前の原発に新指針を遡及適用する超法規的措置をとるかどうかである。全国の原発を超法規的に止めている民主党政権が敦賀を廃炉にしようとするのは当然だが、これは違法の疑いが強い。日本原電が行政訴訟を起こせば、国に勝てる可能性もある。

敦賀1・2号機を廃炉にすると、日本原電は経営破綻に追い込まれるおそれが強い。そのコストは関西電力などが負担するので、電気料金に転嫁される。これは10万年に1度の地震リスクが1000億円以上のコストに見合うのか、という費用対効果についての政治判断である。野田氏は廃炉にしたいようだが、まもなく成立する安倍政権はおそらく別の判断をするだろう。