世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか(光文社新書)
小泉政権の後を継いだ安倍政権から、それまで安定していた自民党はじりじりと支持率を下げ始め、07年の参院選で敗北してねじれ状態が出現した。そして09年、麻生政権は歴史的敗北を喫し、自民党が野に下ったのは記憶に新しい。
この一連の流れを指して一部のメディアは「有権者が小泉改革にNOを突きつけた」と評した。ひょっとすると、今でもそう思っている人はいるのかもしれない。
だが、事実はまったく逆だ。各種データを元に、小泉政権の後継者たちがいかに世論を読み誤っていったのかを明示したのが本書である。
05年選挙で自民党に投票した人の、その後の安倍政権に対するスタンスを追跡調査すると、全年齢層を通じて「郵政造反組の復党」が厳しく批判されているのがわかる。さらに言えば(若年層の右傾化だの何だのと言われているものの)安倍政権の憲法改正方針も、2、30代からはマイナス評価されているのだから面白い。
要するに、第一次安倍内閣は「既得権打破」から「イデオロギー路線」という看板に付け替えた点が支持率低下の要因と言っていい。
恐らく安倍さんからすると、憲法改正等のイデオロギー路線は昔からの党の伝統であるのだから、多少清濁あわせ飲んだとしても勢いのある今ならいけるはずと踏んだのだろう。だがそれがまずかった。
もともと自民の集票基盤だった農村部の一次産業や土木建設業は長期的に衰退の一途をたどっており、ほっておいたら自民党はもっと早くに自滅していただろう。それを回避するには、彼らが従来苦手としていた都市部の無党派層の支持を集める以外に道は無い。そしてそれをやってのけたのが小泉政権だったのだ。
「小泉改革が自民党伝統の支持基盤を破壊した」のではなく「小泉政権は弱体化した支持基盤にかわって、都市部無党派層という新たな支持基盤を作り上げた」といえる。
その支持基盤を動かすエネルギーはバラマキでもイデオロギーでもなく、ただ“改革”への強固な意志のみだ。
長らく地方バラマキの財源のみ負担させられ、返すあての無い借金だけを積み上げられてきた都市部無党派層の悲願と言ってもいいかもしれない。
だが、その後を継いだリーダー達は、最後までそのアングルを理解することはなかった。そのことは麻生さんのこの一言に端的に表れている。
「自分は郵政民営化に賛成ではなかった」
そもそも著者は“麻生人気”自体が完全なミスリーディングであり、幻に過ぎないと切り捨てる。
つまり「現にネットを利用している人」を対象にした調査でもわずか3%しかいないネット上のコミュニティでの政治情報接触者の中で微妙に好かれている、という程度のことである。
虚構の構造改革批判にのっかって党にとどめを刺したリーダーの人気もまた、虚構に過ぎなかったというわけだ。麻生さんご本人がどこまで2ちゃんレベルのなんちゃって経済評論を読んでいたかは
知らないが、本気にしていたとしたら、大学病院の出した処方箋を断っておでこに梅干しはりつけたようなもんである。
さて、本書は09年出版である。
なぜ今になって、棚から引っ張り出して書評を書こうと思ったかというと、最近の自民党を見ていて、ひょっとすると彼らは、自らが負けた理由をいまだに理解していないのではないかと感じたからだ。
むしろマニフェストだけを見るなら、自民党は明らかに政権交代前より退化している。3年間の修行の末に賢くなるどころかもっとバカになって戻ってきたのだとすると、悲劇を通り越してもはや喜劇だ。今からでも遅くはないから、自民党のセンセイ方は本書をしっかり読んだ上で、何が求められているのか謙虚に学んで欲しい。
ひょっとすると「わかっているが、党内のいろいろなしがらみがあって……」なんて言うのかもしれないが、政党一つまともにコントロールできない人達が国家をコントロールできるわけがないのは言うまでもない。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2012年12月17日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。