今年の良書ベスト10

池田 信夫

今年は原著で紹介した1,4,9が翻訳された。本欄は出版業界には注目されているようなので、2と6はぜひ訳してほしい。特に2は、今までのマルクス主義的な歴史観をくつがえす重要な業績であり、4とともに平和ボケの日本人には必読書である。

経済学では巨匠が気を吐いている。1はアゴラ経済塾のテキストだが、9もサブテキストで使う予定だ。「おもしろ行動経済学」みたいな本はいまだに続々と出るが、そういうものを何冊も読むよりこの2冊を読んだほうがいい。


「日銀がお金を配れば日本経済は回復する」というカルト政権が誕生したことは「政治的景気循環」を引き起こして日本経済を混乱させるおそれが強いが、3はその現状を徹底的に実証データで検証したもの。われわれの直面している問題の恐るべき複雑さを知ることが、その解決の第一歩だ。

日本人の意思決定が問われたのも今年の特徴だった。7は事故調の冗漫な報告書より的確に3・11の「失敗の本質」を描いている。5や8は、こうした意思決定の欠陥が日本軍の暴走の原因だったことを解明している。私も来春には日本的意思決定を論じる『「空気」の構造』という本を出す予定だ。

  1. カーネマン『ファスト&スロー』

  2. Fukuyama, “The Origins of Political Order”
  3. 深尾京司『「失われた20年」と日本経済』
  4. ガット『文明と戦争』
  5. 片山杜秀『未完のファシズム』
  6. Wilson, “The Social Conquest of Earth”
  7. 大鹿靖明『メルトダウン』
  8. 川田稔『昭和陸軍の軌跡』
  9. ギルボア 『意思決定理論入門』
  10. ヤーギン『探求』