大学と企業の不毛な争いの終焉 --- 林 良知

アゴラ

田中眞紀子文部科学大臣の3大学不認可問題により、突如として大学に世間の注目(批判)が集まったように見えるが、実はそれは間違っている。

大学への批判は、ここ数年のトレンドである。


昔から大学は象牙の塔と言われ、社会から閉鎖され現実逃避した空間と批判されてきた。

現在の批判は、その頃と比べてもっと現実的に、そして切実なものに変わっている。

それは

「大学は社会に役立つ人材を育成していない」

というものである。

本来、私は大学側の人間としてこの批判に対して論理的に反証するところであるが、あえてそれをせず、逆ギレしてみたい。

今更、何を言っているのだと。

「大学は社会に役立つ人材を育成しなくていい、4年間学生がおもいっきり遊べる時間を提供するべきだ、OJTで我々がしっかり教育するから、がはは」

と言って、大学を鼻から相手にしていなかったのは誰だ。社会であり、企業である。

それが、ビジネスのグローバル化、人材育成コストの削減等の理由で、自社での育成に限界を感じると、これまでの態度を豹変させ、それを大学の責任にするというのは自分勝手もいいところである。
ふざけるなと言いたい。

というようにお互いの主張を繰り返す、不毛なやりとりを行っていたのがここ数年の大学と企業の関係であった。

という、ののしり合いがありつつも、大学と企業は研究面において協力は行ってきた。

「文部科学省による大学等における産学連携など実施状況について」によると、平成23年度は民間企業と大学により、16,302件(33,433百万円)の共同研究が行われており、その成果として様々な商品開発が行われ、大学発の製品として商品化もされている。

但し、共同研究の90%近くは理工学系の学部での取組みであり、人文社会系学部との共同は数えるほどしかない。

ここに、池田信夫氏が、人文社会学系学部なんて存在する価値がないという根拠があるようにも見える。

確かに教育、研究の面で人文社会学系学部が存在感を示せなかったことについては一定の事実があるかもしれないが、ここにてきて流れが変わってきた。

理工学系に加え、人文社会学系においても、個々の大学のWIN-WINを越えた、教育での連携が本学的に始まろうとしているのだ。

平成23年年7月27日に第1回の会合が開かれた、「産学協働人財育成円卓会議」がその流れを作った。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/46/siryo/1309212.htm

この会議は文部科学省、経済産業省の共同事務局により、日本有数の企業、大学の錚々たるメンバーが集い、今後の日本を背負っていく若者を育成する目的で設立された会議である。(企業側:株式会社日立製作所取締役会長 川村隆、大学側:東京大学総長 濱田純一が共同代表)

これまでも同様の会議はあったが、とりあえず集まって政策提案をして終わりという具体的行動を伴わないものであったが、「産学協働人財育成円卓会議」ではアクションプランを策定し、その実行まで追跡調査することが想定されている。

裏で立ち回った、元文部科学副大臣 鈴木寛のファインプレーであるが、大学業界、産業界が相互の利益を越えてタッグを組まなければならないほど日本は危機的な状況になっているともいえる。

現場の教職員がどう思っているかは別の話しだが、少なくともトップレベルではそれだけの危機感を持っているということだ。

平成24年5月7日には、同会議から、グローバル人材育成など、大学と企業の協働による具体的な7つの人材育成アクションプランが公表されている。

そのアクションプランの「おわりに」はこう締めくくられている

「今回の協働作業を通じて得られた経験を基礎として、今後、産学の対話、協働を更に発展させていくためのプラットフォームを形成し、「人財」育成の好循環サイクルの構築に向けた取組を推進していきたいと考えている」

今回の衆議院選挙により、自民党の下村博文氏が文部科学大臣となったわけだが、この流れを継続していくことを切に望む次第である。

いや、この流れは誰であろうと、もう止められるものではないだろう。

日本にもう不毛な争いを続けている時間はないのだから。

林 良知(はやし よしとも)
大学職員