Economist誌のブログが「政府債務はどのぐらいまで維持できるか」を論じている。欧米でも緊縮財政を求める「小さな政府」派と、「需要不足のとき緊縮財政はバカげている」というケインズ派が論争しているが、これは財政破綻というテールリスクをどう評価するかという問題だ。
先日の対談でも、山崎氏が「現状の株価や不動産価格をみれば、少なくとも今の日本の株価や不動産はバブル状態にはない」というのに対して池尾氏は「今の日本の国債がバブル状態だ、と言う人もいる。この国債バブルの崩壊は、長い目でみれば10年以内に起きる」という。つまり現在の長期金利をバブルと見るかとうか、という相場観の違いだ。
どっちが正しいかは現状ではわからない。少なくともマーケットは、国債にリスクがあるとは考えていない。しかしこのまま国債を発行し続けると、20年後には政府債務が2000兆円を超え、これは国内で消化できない。ドル建てで国債を発行したら金利が急上昇するので、発行は不可能だ。つまり1000兆円と2000兆円の間のどこかに閾値があると考えられる。
この閾値に近づくとき、長期金利がゆっくり上がってゆくなら日銀が国債を買い取れば収まるというのが山崎氏の見立てだが、池尾氏は「日銀が財政ファイナンスをしていると市場が見ると、資産の海外逃避が始まる」という。つまり国債発行の限界が通常の金融市場と同じように起こるか非線形に起こるかの問題だ。
こういうテールリスクは、ふだんは意識されないので、邦銀のサラリーマンはリスクゼロで0.8%近い利鞘をとれる国債を買うのをやめられない。目の前の利益は確実だが、財政破綻のリスクは遠い先の話で、それが起こったときは自分の責任なんか問われないからだ。私との対談で、外資系投資銀行のトレーダーである藤沢数希氏はこう話している:
銀行もリーマンブラザーズが潰れたのと同じ構造があるんですよ。短いところで調達したお金で長い国債とかを買って、それで何もなければ儲かるし、なんかあったら国が絶対面倒見るでしょう。そういう日本の銀行もリスクを国全体で、たとえば東京三菱銀行とか三井住友とか、潰れたら日本も大変だから国債も大変だし、絶対政府の方も救済しちゃうんですよね。どう考えても。そういう意味で、隠れた補助金というか、テールリスクを国民に押し付けながら自分たちはビジネスをしているわけですよ。
このように隠れたテールリスクをとって短期的な利益を得る行動は、モラルハザードの一種である。アメリカの金融危機の場合は、テールリスクは銀行の破綻だったので、納税者がその損害を補填したが、国債の暴落で邦銀が破綻すると、それを補填する財源はない。EUの場合はドイツという「深いポケット」があるが、日本の個人金融資産というポケットは、実は国債で食いつぶされている。
こういう状況で、財政破綻のリスクを取って大型予算を編成する麻生財務相のギャンブルは、政治的なモラルハザードだ。それが当たれば金をばらまいて参院選に勝つのは自民党だが、はずれて財政が破綻したら負けるのは納税者である。