発達障害が人類を引っ張ってきた!?

田村 耕太郎

進化心理学の第一人者である長谷川寿一東大教授と、発達障害の意義について議論させてもらった。結論は、発達障害が人間の知性を引っ張ってきたのではないかということだ。例えば石器や武器。これらは相当コツコツとした粘り強い集中力が要されるもの。これら人類の道具を作ってきたのは自閉症の人ではないかとのこと。実は人類の英知と言われる偉人には自閉症が多い。


自閉症の一種であるアスペルガー症候群他、発達障害だったといわれる偉人として、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ガリレオ・ガリレイ、 グラハム・ベル、ベートーヴェン、織田信長、 ビル・ゲイツ、アインシュタイン、 ゴッホ、トーマス・エジソンらがある。

アスペルガーの人は尋常でない集中力を持つ反面、以下のような特徴があるといわれる。
・他人の心が読めない
・会話が成り立ちにくい
・間接的な表現が理解できない
・年齢相応の友だちができない
・喜びや興味を他人と分かち合えない
・状況に応じて柔軟に行動できない
・生理整頓が苦手
・計画・系統だった準備ができない

様々な多様性を持つアメリカ社会では、発達障害も一つの個性としてとらえ、彼らの才能や特徴に合わせた教育や活躍の場が用意されている。

わが国は、第二次大戦後特に異質(多様性)を排除し均質性を高めることで発展してきた。そのため、少しでも違いがある人を区別してきた。しかし、世界は発達障害も含めて色んな多様性を受け入れる社会・組織になりつつある。この点、異質なものをいじめてしまったり、強制的に同質化を求めようとしてしまう日本の組織も多様性におおらかになりあらゆる個性を活用すべきだろう。戦後だけ異常に均質性を求めたが、そもそも我が国の長い歴史の大部分では多様性におおらかで世界から文化や技術を習得してきたのだ。

少し話はかわるが、科学術の発展の影に不幸な歴史があることもわれわれは忘れてはいけない。チンパンジーと人間だけが、オス同士が連携して他の集団との戦争をすることを紹介した。悲しい話だが、実は人類の科学の進歩の原動力は戦争であった。自らの生死の命運がかかった時に、人類は科学に投資をしてきたのだ。宇宙科学を支えるロケット技術も核物理学も医学もそうである。アメリカで高度医療が進んでいるのは、アフガンやイラクから半死で運ばれてくる兵士の治療にあると言われる。

今後も科学の発展のために戦争が必要だとは言う人はいないと思うが、人類は戦争のために科学を発達させ、その結果として皮肉にもわれわれの生活が便利になった。しかし、その技術は使い方を誤れば、いずれももろ刃の剣として自らに向かう恐ろしさを持つことを知らねばならない。

テロメアという長寿遺伝子が突然変異で長くなったといわれる人類は、これからゲノム解析・ゲノム創薬・再生医療・ロボット技術等の恩恵で、ますます健康で長寿になり、人口も90~100億人近くまでは増えるといわれる。人間の他に環境を自ら作ることができる生物は、他にはダムを作るビーバーくらいしかない。乾燥が進んで森林が減ってきたアフリカで、草原に出ることを恐れ森にとどまったチンパンジーやゴリラを横目に、森から危険なサバンナに踏み出した人間は、リスクテーカーだ。そのアフリカから15万年かけて全大陸に出て行った人類。もともとわれわれはグローバルなリスクテーカーなのだ。この人類がこれからどう進化していくのか?

グローバルでリスクテーカーであることが遺伝子に組み込まれたわれわれ人類だからこそ、日本人ももともと多様性への対応能力はあるはずだ。グローバル人材とかリスクをとれといわれるが、アフリカから何万年もかけてこの島に渡ってきた我々の祖先は皆そうだったのだ。グローバルでリスクが高まる時代なんて、我々日本人には「待ってました」の時代なのだ!