池田信夫:藤沢さんの『外資系金融の終わり』では、大きな金融機関の未来はあまり明るくないと書かれていますね。金融業界は「表が出たら私のもうけ、裏が出たら納税者の損」という詐欺的な構造になっているが、そんなこといつまでも自由にできるはずがない。
藤沢数希:それも基本的には、政府というか、監督する側が、法律でどうやって規制するかでほとんど決まるわけです。ただ世界金融危機が起きて、その後も金融機関の不祥事には事欠かないわけでして、いろんな金融学者の間では、こういうモラルハザードだとか、システミックリスクがどんどん広がっていくような仕組みっていうのは、一言で言えば”Too Big to Fail”ということなんですけど、これは大きな問題という思いは、みんな共有してます。
で、それに対して、アメリカとかイギリスとか、各国が規制しようとして、金融機関はロビー活動して、なるべく規制されないように、というせめぎ合いなわけです。だからどこに着地点がいくか、ですよね。
基本的には今までよりも、やりにくくなるでしょうし、そうすべきですよね。やっぱり基本的にはおかしいですから。社会にテールリスクを押しつけて、自分たちは儲かるっていうことは根本的におかしい。ただ、各国に主権があるので、各国バラバラに規制しても、どこかに穴が空いちゃう。だから、規制するのも国際的に同時にやっていかないといけないから、当然、各国で利害が対立するわけで、非常に難しい問題ですね。
池田:社会にリスクを押しつけて自分たちだけいい思いをしよう、というのはどの業界でも普遍的なことですよね。
藤沢:そう、非常に普遍的な人間の性質です。だから、いかに政治家を利用して、法規制を自分たちの業界の利益になるように、これをいかにうまくやるかですよね(笑)。それができた業界は儲かるわけです。国全体の体力を奪いながらね。
池田:金融は非常にこう露骨にでてきちゃっただけで、反原発の人々がやってることも、福島みずほ氏がやってることも、みんな同じですよ。自分はきれいごとを言って、そのコストは他人が広く薄く負担する。ただ「福島みずほ症候群」というブログ記事を書いたとき気がついたのは、彼女は正直にモラルハザードやってるだけで、自民党も昔は結局同じことやってたわけですよ。
国債を発行して自分の地元の土建屋に金ばらまいて、その負担は納税者に押しつける。最後は財政破綻するかもしれないけれど、それは10年以上先のことだから、個々の政治家の責任は問われない。財政破綻というテールリスクを取って他人に付けを回すということで、政治家というビジネスは成り立ってるわけです。
藤沢:生物学で提唱されて、その後にゲーム理論でいろいろ定式化された「共有地の悲劇」という問題ですよね。共有の放牧地があって、みんなでエサをいっぺんに取っちゃったら、放牧地が荒れてみんなが損するけれども、一人だけ控えめに取ったからって、ほかの人が取るから結局みんなで食い尽くして行くしかないっていう。結局、こうやって経済全体が毀損していくんですよ。
ただ福島さんていうのは、普通の人が考えただけでおかしいってわかるんですよ。でも金融がよかったのは、グローバルな金融機関のビジネスは庶民にはよくわからないから、テールリスクを社会に押し付ける仕組みがうまくつくれたんですよね。
池田:簡単に言うと、世界の巨大金融機関がやってることも、構造的に福島みずほ氏と同じですよ(笑)。
藤沢:ただ非常に複雑なプロセスを通してやってるから、ほとんど人は理解できないんです。福島さんの場合、2割くらいの人が理解できるわけですよ。でも金融のそういうビジネスっていうのは、1%の人も理解できないんです。だから、金融業界はおいしいと言えばおいしいわけなんです。
・・・続きは週刊アゴラに連載中の「世界金融バブル 宴の後の二日酔い」で。