アベノミクスの壮大な実験

池田 信夫

クルーグマンがブログで安倍首相の経済政策を支持している。「安倍はナショナリストで第二次大戦の虐殺を否定し、経済政策にほとんど関心をもっていないが、彼の信じているトンデモ理論は結果的に正しい」という。

Abe may be ignoring the conventional wisdom on spending, and bullying the Bank of Japan, for all the wrong reasons – but the fact is that he is actually providing fiscal and monetary stimulus at a time when every other advanced-country government is too much in the thrall of the Very Serious People to do something different. And so far the results have been entirely positive: no spike in interest rates, but a sharp fall in the yen, which is a very good thing for Japan.


安倍は財政政策の常識を知らないで間違った理由で日銀の独立性を脅かしているかもしれないが、彼は財政・金融的な刺激を提供している。それは世界の非常にまじめな人々が恐れている暴挙だが、金利は上がらず、円は下がり、日本経済は回復している。無知な彼は、結果的に世界各国ができない大胆な社会実験をしているのだ――というのがクルーグマンの見立てである。

これは池尾・山崎論争で山崎氏が言っていた話に近い。経済学者は危ない危ないというが、現実に何も起きてないんだから、やってみればいいじゃないか、という議論だ。安倍氏はそこまで考えたわけではなく、単純にリフレを信じているのだと思うが、現実には彼の暴走が円安・株高をもたらした。どうせマクロ経済学なんて当てにならないから、実験で検証できるならやってみればいいという主張は成り立つ。

問題は、間違いだとわかったとき引き返せるのかということだ。政府債務を膨張させると、長期金利が上昇し始めたとき危ないと思っても、財政赤字はすぐには止まらない。政治家が歳出を増やすときは今回のように2週間で10兆円も出すが、歳出削減は10年かかってもできない。日銀が国債を買って長期金利を抑えようとしても、それが財政ファイナンスだという疑惑をまねくと、さらに金利が上がる。

ただ、これもクルーグマンにいわせればVery Serious Peopleの杞憂かもしれない。アメリカ経済を救ったレーガノミックスも、当初はVoodoo economicsなどとバカにされたものだ。失敗した場合も、焼け跡リセットで日本が回復する可能性もあるとすれば、アベノミクスの無謀な実験もしばらくやってみる価値はあろう――あなたが実験台になる覚悟があれば。