成功する官民ファンド、失敗する官民ファンド

高橋 正人

1.官民ファンドへの懐疑
官民ファンドの乱立が話題になっている。報道でみる限り、再生可能エネルギー、PFI、農林水産業、コンテンツなど何でもありの雰囲気だ。投資分野は様々だが、(1)政府が一定のリスクをとることにより民間のリスクマネー供給を後押しする、(2)投資案件の目利きに民間のプロを使う、といった点は多くのファンドに共通しているようだ。

ファンドの乱立に国民やマスコミは疑いの眼差しを送っている。1月15日の日経社説(「官製ファンドは日本経済の救世主か」)は、(1)投資案件の将来性を見抜く力があるのか、(2)企業の単なる延命に使われるだけではないか、といった疑問点を提示している。まっとうな懸念点である。


2.成功する官民ファンド、失敗する官民ファンド
官民ファンドの成功と失敗をどうすれば事前に見極められるのだろうか。基本的には「制度設計がファンドのリターンを最大化する仕組みになっているか」をしつこく確認する必要がある。言い換えれば、リターンを最大化するインセンティブ設計になっているか見極めるということだ。

具体的なチェック項目は以下のような点ではないか(概略は以前書いた「ダメな政策の見抜き方-ファンド編-」(2012年2月)と同様)。極論すれば「誰のカネで、誰が、何をするのか」をしっかり見るしかない。

(1)投資家(誰が出資するのか)
 国の資金以外に
 ・運用者(民間)も出資しているか?

(2)運用者(誰が運用するのか)
 ・実績のある民間のプロが専業で運用するか?
 ・運用者が途中で辞めづらい契約/仕組みか?
 ・意志決定に独立性が保たれているか?(政府介入はないか?)

(3)案件(何をするのか)
 ・案件が掘り起こされる仕組みはあるのか?
 ・投資先をハンズオンするのか?(また、できるのか?)
 ・案件の出口戦略は適切か?

これらの基本的な仕組み・方針が明確になっていないファンドは成功しないだろう。しかし、実際は曖昧な点を残したまま官民ファンドの設立が進んでいるように外部の観察者には見える。ファンドのコンセプト(夢)を語るだけでは不十分だ。狙いが立派なだけでリターンが上がるのだろうか。上がるわけがないだろう。

3.まずは「条件付きのコミット」から
過去の事例をみると、制度設計が完全に固まる前であっても、政府資金のコミット(閣議決定、国会の議決など)をしている。大筋で承認してしまい、詳細は「事務方で良きに計らえ」というわけだが、それは非常にまずい。神は細部に宿るのだ。

未定の要素があってもコミットせざるを得ない言い訳として、「国がコミットメントの姿勢を見せないと民間の人材や資金が集まってこない」とよく言われる。「ファンドの詳細を詰めていくためにこそ、国のコミットが必要なのだ」という理屈だ。

そうであれば、ファンドの設計案をよくみて、条件付きで政府資金をコミットすればよいのではないか。当初の設計案から外れていった場合は、国によるコミットを解消するのだ。

こうすれば、要求省庁は早い段階からファンドの設計を詰める必要性に迫られるし、政府資金を白紙のファンドにコミットしてしまうことも避けられる。

4.基本的には筋が悪いからこそ厳密にやろう
忘れてはならないのは、政府が直接に市場のプレイヤー(投資主体)になってしまうのは筋が悪いという大原則だ。政府の仕事の本筋は市場の環境整備であり、基本的には裏方に徹するべきだ。

政府が呼び水効果を発揮すべき分野が全くないとは言わない。しかし、ファンドを乱立させるほど無尽蔵にあるとも到底思えない。基本的に筋が悪いことをやろうとしているのだから、政府資金を正式にコミットする前にファンドの制度設計を冷徹に審査するプロセスが必要ではないか。

高橋 正人