日本人を長寿にしたのは和食ではない

田村 耕太郎

高齢化は、経済成長の問題ではなく、分配の問題である。人口と経済成長の間には相関がないことは知られており、これについては今後詳しく語りたい。今回は日本人の長寿化について書いてみたい。日本人の寿命は、高度成長が始まる前はアフリカと同等の短命だった。高度成長とともに世界の長寿国に仲間入りした。高度成長前半は、乳幼児死亡率の改善が長寿化に貢献した。

乳幼児死亡率の改善が実現された要因は二つ。
・世界に誇る母子手帳
・病院での出産
まず母子手帳導入により、出産前の検診が始まった。加えて、これは家で産婆さんによって出産していたのを、病院で出産するようになった。専門家の間では、母子手帳も大きいが、どちらかといえば病院での出産が乳幼児死亡率を大幅にさげたといわれる。

高度成長期後半は高齢者の長寿化が日本の平均寿命の延伸に貢献。ここではよく言われ
るように、伝統的な日本食が日本人を長寿にしたのではない。実は伝統的な和食が日本人の寿命を短くしていた可能性もある。

例えば塩分。高度成長期まで、日本では冷蔵技術と高速道路が不十分で、新鮮なものが広く国民に行き渡りにくく、とうしても塩漬けの食べ物が多かった。塩分過多で高血圧になり、脳卒中や心臓疾患を引き起こしていた。これを改善したのが、三種の神器の代表・冷蔵庫と全国に張り巡らされ始めた高速道路である。

意外に知られていないのが、国による栄養改善指導。国が栄養士を各家庭に巡回させ食生活改善を働きかけたことも大きい。内容は、塩分を減らし、たんぱく質を多くとることを奨励した。

和食が長寿を可能にしたのではなく、実は食と栄養の改善が日本人を長寿にしたのだ! 「食の欧米化が生活習慣病を加速させている」というような報道があるが、実は違う。日本人の死因の欧米化は、食の欧米化というより、長寿化のせいである。長寿になれば、がんや心臓病にかかる可能性が高まるのだ。高齢化の要因を取り除けば、日本の死因の欧米化は進んでいない。

日本は昔から長生きの国ではないし、伝統的な和食が日本人を長寿にしたのではない。栄養と医療という豊かさが日本を変えたのだ。これを忘れてはいけない。データを正確に見て風説に騙されないようにしよう!