GEPR編集部(GEPR版)
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCAR)は現在、福島で起こった原発事故の評価、また放射線の人体への影響をめぐる議論を重ねている。海外の報道WNN(World Nuclear News)の記事「UN approves radiation advice」(国連、放射線の勧告を採択へ)を参考に、それをまとめる。これは米国の原子力情報を提供するニュースサイト。
報道によれば、12月の暫定報告書で、同委員会は福島については事故から放出された放射性物質によって、健康影響は予想されないことを確認した。これはWHO(世界保健機関)や東大の調査を参考にしている。また地球上の放射線の自然被曝量(年1-13mSv)のレベルで長期被曝しても、健康に影響しない可能性が高いとしている。
福島事故、健康への影響は見つからず
WNNによれば、12月の討議では福島をめぐり同委員会のウォルフガング・ワイス委員長が「観察可能な健康への影響はみつかっていない」と、報告した。6人の作業員が、緊急事態に取り組む間に合計250mSv以上被曝した。また170人は100 mSv以上であった。これらの人から健康被害派出ていないし、事故、ならびにそれ以降に死亡した6人の原発作業員の死因に放射線は関係ないとしている。
原発事故では、ヨウ素131の偶発的放出による甲状腺ガンのリスクがある。これは短期間で影響がなくなるものの、子供と若い人々の甲状腺に吸収されることがあり、甲状腺がんの誘因となる。これはチェルノブイリ事故で、主要な健康被害をもたらした。
2011年に日本の当局は、これを含む食物と水の消費を抑制して、福島県の子供たちを守った。日本の子供が受けたと考えられる被曝は最大で35mSvという。アルゼンチンのUNSCEAR代表、ヘラルド・ディアス・バルトロメ氏は、チェルノブイリ事故後に子どもが受けた被曝量と比較し「安心を与えるもので、このよい知らせは強調されなければならない」と、指摘した。
また同委員会は、100mSv以下の被曝で、健康被害の自然発生の可能性は低いものであるが、統計の少なさゆえに確定できないとしている。
勧告は国連で採択へ
同委員会は今後数ヶ月以内に、国連総会などの決議を経て、勧告を正式に採択する見通しだ。国連は原則として加盟国の内政には干渉しないものの、この勧告は各国の政策の参考になるであろう。
勧告の一部である報告書「低線量における放射線作用の生物学的メカニズム–国連科学委員会の将来の事業計画の指針白書」(Biological Mechanism of Radiation Actions at Low Dose- A White Paper to Guide the Scientific Committee’s Future Programme of Work)の要旨和訳はGEPR に掲載されている。この報告は迂遠な表現であるが、国連の報告書間で整合性が取れていないこと、また低線量被曝についてのコンセンサスがないことを強調している。
また米経済誌フォーブスは、この国連の指針白書を参考に『放射能と発がん、日本が知るべき国連の結論』という記事を公表している(日本経済新聞サイトへの転載)(元記事「Like We’ve Been Saying — Radiation Is Not A Big Deal」(放射能の危険はたいしたものではない-これまで言ってきたように))。ただし国連は、低線量被曝の健康被害は確認されていないことを述べたのみで、フォーブスの記事が示唆したようにLNT仮説(しきい値なし仮説)を否定するなどの強い主張はしていない。
独立した国際的な専門家集団であるUNSCEARは1955年以来定期的に会合を開き、原爆生存者とチェルノブイリ事故の影響の研究を通して、放射線の知見を集め、国連加盟諸国に勧告してきた。