「面従腹背」のインフレ目標に喜ぶ首相

池田 信夫

日銀はきのう2%の「物価安定目標」を設定した。安倍首相は「画期的な文書だ」と喜んでいるそうだが、彼には共同声明が理解できないのだろう。そこには、2%の根拠は次のように書かれているからだ。

日本銀行は、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している。この認識に立って、日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする。


「成長力」が高まることによって物価が2%になると思うので、それを目標とする、と他人事のように書いている。ここでいう成長力は潜在成長率のことと思われるので、これをマクロ経済学的にいいかえるとこうなる:

「日本経済の潜在成長率が高まると、GDPギャップがプラスになってインフレが起こる。物価上昇率は実質成長率の55%ぐらいなので、今ほぼ0%のGDPデフレーターを2%にしようと思うと、4%以上の実質成長率が必要になる」


実質4%の成長率がいかに非現実的な目標かは、上の図を見ればわかるだろう。ここ20年の実質成長率の平均は0.9%であり、4%になったことは一度もない。それは日本が世界を制覇するともいわれていた「黄金の80年代」の成長率である(その後半の平均でもインフレ率は1.3%)。その「成長力」はどうやって高めるのだろうか。共同声明にはこう書かれている:

政府は、我が国経済の再生のため、機動的なマクロ経済政策運営に努めるとともに、日本経済再生本部の下、革新的研究開発への集中投入、イノベーション基盤の強化、大胆な規制・制度改革、税制の活用など思い切った政策を総動員し、経済構造の変革を図るなど、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組を具体化し、これを強力に推進する。

つまり成長力の強化は、政府の仕事なのだ。GDPを上げるだけなら簡単である。今回の補正予算のように10兆円ばらまけば(乗数効果は1でも)GDPは2%上がる。したがって国土強靱化法案のいうように、20兆円のバラマキを10年ぐらい続ければ(財政が破綻しなければ)4%成長は起こるだろう。だから岩本康志氏も指摘するように、この共同声明は

安倍首相「インフレ2%にしやがれ」
白川総裁「やるけど,あんたが先にすることしやがれ」

という論理構成になっているのだ。したがってBloombergも報じているように、資産買い入れなどは「実質的にゼロ回答」の面従腹背とみるのが正しいが、経済を知らない首相も漢字の読めない財務相も日銀にだまされて喜んでいるようで、結構なことだ。