“自治体のビックデータ活用”と“政策マーケティング”で自治体の政策や行政サービスは大きく変わる

高橋 亮平

先週末、武雄市長、千葉市長、奈良市長、福岡市長の4人が「ビッグデータ・オープンデータ活用推進協議会」を設置すると発表した。
これまで特定の目的のみで使われていた自治体や民間企業の持つデジタル化された膨大な情報「ビッグデータ」を新しい発想で組み合わせ、ビジネスの創出や新しい住民サービスの提供などにつなげようと、夏頃までにデータの活用法を企業などから募り、優れたアイデアについて2014年度の実用化をめざすという。
自治体の「ビックデータ・オープンデータ」の活用については、昨年出版した著書『20歳からの社会科』(日経経済新聞出版社)の中でも、「集合知の活用や政策マーケティングなど『地方自治2.0』ともいえる新しい民主主義の仕組みの構築も求められるのではないでしょうか」と書き、年末にも『いよいよネット選挙解禁で日本の民主主義はどこまで進化できるか』https://agora-web.jp/archives/1509518.html を書かせてもらったが、本格的に自治体が活用を考えれば、民間以上に様々な可能性が広がる。


自治体の「ビックデータ」利用では、自動車メーカーとの提携で、カーナビの走行履歴から急ブレーキの多発地点などを割り出して道路整備や安全対策を行うことなどが事例で紹介される。民間の製薬会社では、Twitterのつぶやきを分析し、地域ごとの風邪の流行や予測などが提供されているほか、政治分野においてもこうしたつぶやきから選挙分析を行って事前に当落を予想することなども実施されている。

今回の協議会では、自治体には医療、福祉、農業、まちづくり、地域ごとの待機児童数など膨大なデータが、民間には人の移動や購買行動、交通機関のダイヤなど様々なデータがあり、こうした「ビッグデータ」の活用で、新たな住民サービスや産業・雇用の創出などにつなげるとのことだが、自治体がこれまで活用することのなかったこうした「ビックデータ」を本気で活用していこうと覚悟を決めれば、さらに可能性が浮かび上がってくる。

必ずしも「ビックデータ・オープンデータ」の活用ということではないが、Amazonの利用者なら購入したり検索したりすると、おすすめの商品を紹介するのを体験したことがあるはずだ。図書館の貸出履歴の活用は図書館法により禁止されており、同じように図書館でおすすめすることはできないが、様々な行政サービスにおいて、これまでのような「申請主義」から「Push型のサービス」へと転換することは、行政にとって大きな変化となる。
行政内の「ビックデータ」の活用については、法規制など乗り越えなければならないハードルもあるが、これまでの行政の対応では、「ハンバーガーとコーラ」と注文するとそのままコーラとハンバーガーが出てきたのが、「今ならポテトもついてこちらのセットがお得です」と求めてきた内容やニーズに基づき、個々に応じて、さらに満足度を高めるようなサービスの提案をするという形は、今後の行政を考える一つの可能性である。

また、人口の流入流出など人口移動のデータと、つぶやきなどによるニーズのマーケティングを重ねれば、現状の街の評価や、求められる付加価値や街のめざす方向性等が見えてくる可能性もある。逆に言えば、こうした「ビックデータ・オープンデータ」を活用した政策マーケティングは、現状の良かれと思って行われている政策の多くが、ほとんどインパクトがないことを示してしまうなどということも起こるかもしれない。

政策形成においては、インプット(投入予算や労力)やアウトプット(公共サービスの量)、アウトカム(政策成果)などの視点が重要であり、評価においてもこうした視点から行いながら、事業やサービスの修正を繰り返し、PDCAを回していく必要がある。詳しい話は、また別の機会にするが、アメリカなどの先進の政策形成現場においては、こうした視点に加えて、さらに政策マーケティングを行いながら政策が形成される。
しかし、国内においては、政策は机上で作られる事が多く、こうした政策形成の場において、市民ニーズなどマーケティングが活用されることは、極めて少ない。

マーケティングとは、必ずしもネットを活用したものを言うわけではなく、むしろネットマーケティングは簡易な半面、正確性に欠けるなどと言われることもある。しかし、行政による「ビックデータ・オープンデータ」の本格的な活用を進めることをきっかけに、この国においても政策形成の中に、政策マーケティングが加わっていくことを期待する。

とくにFacebookやTwitterといったソーシャルメディアの利用は、大きく広がり、多くの人たちの行動や思考がネット上に集まるようになってきた。こうした「ビックデータ・オープンデータ」の活用には、自治体にとっても大きな可能性があるように思う。

2000年のいわゆる地方分権一括法によって、地方と国の関係が変わり、右肩上がりの経済状況と人口増加を前提とした新たなパイを取り合う時代から、人口減少、低成長の中で新たな課題やニーズに対応する「知恵」が求められる時代に変わってきた。より一層多様化するニーズと、マトリクス化した複雑な問題を解決していくためにも、政策形成における政策マーケティングの必要性は、さらに重要になってくる。

こうした中で、もう一つ考えたいのが、政策形成における「潜在ニーズ」の具現化である。
「iPod」の出現で、多くの人の音楽の聴き方が大きく変わった。
プレイヤーの中に数百曲から1万曲以上が入るため、好きな時に好きな曲が聴け、新しい曲もいつでもダウンロードできる。これまでのようにCDを購入するためにCDショップに行ったり、レンタルショップで借りたりする必要がなくなった。音楽を聴く多くの人たちが「これだよ自分たちが求めていたのは」と思ったに違いないが、「こういうものを作って欲しいんだけど、どこか作ってくれないかな」というユーザーからの声から作られたわけではない。

単に表面化した大きな声だけでないサイレントマジョリティの声を拾い上げることももちろんだが、一方で、多くの人が意識しないで発信している「無意識」についてもこれからの政策形成においては重要な意味がある。

これからの時代において、公の担い手は、必ずしも行政だけでない。市民や企業、非営利セクターなど幅広い層の持つ知識やスキルをどう地域に生かす仕組みを創るかも同時に求められている。今後はより多くの人たちの知恵を「集合知」として活用していくことも考えて行くことも重要だ。
自治体の本格的な「ビックデータ・オープンデータ」の活用には、こうした自治体のあり方や、政策形成のあり方そのものを大きく変えるきっかけになることも期待し、また自分自身も新たな提案を続けて行きたい。