4Kテレビは安くなる。そして売れる --- 西 和彦

アゴラ

スーパーコンピューター仕分けでの蓮舫参議院議員のあまりにひどい発言にびっくりして、ソファから転がり落ち、アゴラの記事を書いたのは2009年の11月で3年3ヶ月も前なのであるが、最近、また、ビックリした昔の仲間の記事があって、PADを足の上に落としてしまった。その記事に対する私見を池田信夫に話したら、「是非書け」というので、まとめておくことにした。

東洋大学教授の山田肇氏によると、「4Kテレビは失敗する」ということである。

4Kテレビを、ビックカメラかヨドバシカメラの店頭で見ただけで、しっかり自宅で毎日視ていないのに、よくこんなことがよく言えるよと思う。


ソニーと東芝とシャープが4Kを電気店の店頭でデモしていたが、それぞれ100万円近くの高い値段を付けていた。こんな値段だと私は買わない。でも、これは最初の価格であって、そのうち値段は2kと同じぐらいまでさがるのではないだろうか。そうしたら私は買う。2kの値段は60インチでも、去年の年末に8万円だった。2kのスクリーンは画面の高さの3倍離れないといけないと言われているが、そんな広いところで2Kを見ている人は多いのであろうか。狭い部屋で、近くで視れば2kの荒いドットは見える。これが4kになれば、もはやドットは見えない。

4Kテレビのコストアップの理由は液晶板の歩留まりではなく、ドライバーの数が、水平、垂直それぞれ2倍になるということである。2Kのドライバーを流用できるし、そんなに高い部品ではないので1000円ぐらいか。4kをドライブするLSIもたくさん作ればもう1000円ぐらいのアップというところか。

「4Kテレビ受信機」は、値段が安くなれば、必ず売れる。2Kの放送を視るのに最適のテレビは2Kではなく、4Kテレビ受信機である。

私は4Kテレビをプロジェクターで何ヶ月も見た。家ではまだブラウン管でテレビを視ている。でも、それはテレビ局の副調整室で使われていたソニーのBVMシリーズである。それをカラーセンサーで色修正して使っている。その綺麗な色を見慣れてしまったら、電気店の店先の液晶テレビなんてとても買えない。放送局ごとの送り出しの色の好みも判る。私は自分のテレビを買い換えるなら、プロジェクターではなく値段が数年のうちに安くなった4K液晶テレビを買いたいと思っている。

「4Kテレビ放送」は、CSのような有料テレビから始まるのであろう。BSでも新しい衛星に変えるときに、新しいトランスポンダーを110度放送衛星に乗せるのであろう。NHKはスーパーハイビジョンで8Kをやると言っている。秋葉原でデモしていた。個人的には「やりすぎかなあ」と思った。4Kの100メガや8Kの400メガのストリームの放送がどうなるのかは、今のところ誰も判らない。でも、やってみるしかないのでは。山田氏は「国民の多くがネット経由で映像コンテンツを楽しむ方向に動けば、この強制施策も失敗に終わる。」と言う。こんなことは絶対におこらないと私は思う。この発言は、「国民の多くが書店経由で新聞コンテンツを楽しむ方向に動けば、この強制施策(新しい新聞)も失敗に終わる。」ということと同じである。ときどきYOUTUBEを視るが、ライブのテレビ放送をテレビで見る方が好きだ。放送とオンデマンドのネットとは性格が違う。ネットの上の放送というIPTVの概念はまだ完成していないし、完成には長い時間が掛かると思う。放送とは免許であり、利権であり、政治でもある。

インターネットで100メガや400メガのノンストップ伝送を保証できるところは少ない。そうなると4Kのメディアは光ディスクになる。現行のブルーレイディスクには4Kが入っていない。入れることはできるだろう。でも時間が短くなる。長くするには200ナノメーターの紫外線レーザーが必要だが、今はない。ソニーもサムソンも、おそらく自分のフォーマットを提案するであろう。ここのところにも注目している。ホームシアターでは2Kでなく4Kでみたいという映画マニアやソフトディスクを高く売りたい映画会社は4Kをウエルカムするのだろう。

4Kテレビは、テレビ受信機の中で、値段がこなれて安くなったら、ハイエンドの商品として消費者に受け入れられるのではないかと期待する。そこで日本のテレビメーカーがビジネスを優位に展開するためには、今のうちから4Kや8KをNHKのようにやっておくことが必要ではないか。また、韓国や台湾のテレビメーカーが安く作ることが出来ないような技術的な仕組みや部品の供給のシナリオも必要であろう。私は、そんなことをしてもこの国際分業化の時代に空しいと思うが、日本政府の考えはそういうところなのであろうと見ている。それに対して「4Kはリスクが高い、展望の見えない計画だ。総務省が旗を振るのは疑問だ。それでも家電メーカは追随するのだろうか。」何を言うのも自由だけれど、こういうことを言うから、総務省は審議会の委員にアリバイ的に山田氏を選定するかもしれないが、私や産業界から笑われるのである。

西 和彦
尚美学園大学教授