何が日本の経済成長を止めたのか―再生への処方箋
著者:星 岳雄 アニル・カシャップ
販売元: 日本経済新聞出版社
(2013-01-26)
★★★★☆
本書はNIRAの委託研究として執筆されたもので、日本経済の停滞の原因をさぐる第1部、小泉改革を検証する第2部、そして政策を提言する第3部からなり、全文がウェブサイトで公開されている。内容は現在の経済学の標準的なもので、一般むけにわかりやすく書かれている。
日本経済の抱えている最大の問題は、高度成長期の先進国に追いつくための産業構造を転換できないことだ。かつて日本の産業構造は製造業が中心で、欧米と同じものを低賃金でつくって輸出することで成長したが、今はそういう優位はなく、逆に中国に追い上げられている。1980年代前半までは1ドル=250円以上の為替レートという優位もあったが、それも失われた。
そういう輸出主導型の産業構造の行き詰まりが「円高不況」の原因だったのだが、政府は日銀に利下げを強要してバブルとその崩壊をもたらし、その後20年以上にわたって日本経済は回復しない。このような長期にわたる停滞を財政・金融による「景気対策」で脱却するというのはナンセンスであり、必要なのは生産性を上げて潜在成長率を高めることである。
著者が長期停滞のシンボルに使うのが、ゾンビ企業である。これは市場から退出すべきなのに銀行や政府の支援を受けて生き延びている「実質破綻企業」で、図のようにバブル崩壊で急増し、2000年代になってもほとんど減少していない。これが日本企業の投資不足(貯蓄超過)をもたらし、生産性の向上を阻害しているというのが著者の分析である。
ゾンビ企業の資産比率(%)
これに対して、政府は一貫してゾンビ企業を延命する政策をとってきた。自民党政権の公共事業の真のねらいは、業績の悪化した地方の土建業者の救済であり、民主党政権の雇用調整助成金やモラトリアム法(中小企業金融円滑化法)も、非生産的な雇用を守る政策だ。
こういう政策は政治的には人気があるが、結果的には生産性の低下した企業(特に非製造業)のリストラを阻害して生産性を低下させ、日本経済をゾンビ化してしまった。これが20年間にわたる長期停滞の最大の原因なので、必要なのは「成長戦略」に予算をばらまくことではなく、こういう有害無益な温情主義政策をやめることである。
こうした構造的な問題は、マクロ経済政策では改善できない。公共事業は非生産的で財政危機を悪化させたので、成長への寄与はマイナスである。金融政策については日銀の失敗を批判しているが、星岳雄氏の最近の記事では安倍首相が日銀の独立性を奪おうとしていることは危険だと指摘している。今や日本の直面する最大の問題は、財政破綻の危機だからである。