画質が良いから売れるって単純すぎませんか?

山田 肇

4Kテレビは失敗する」という記事を書いたところ、画質が優れる4Kが売れないはずはない、という趣旨の反論をいくつかいただいた。しかし、画質が良いから売れるというのは単純すぎる。

ブルーレイは地上デジタル放送並みの画質で、DVDはそれ以下だから、市場が画質を重視するならブルーレイが圧倒的に売れるはずだ。しかし、情報メディア白書によると、2011年のビデオソフト出荷本数は、ブルーレイが1423万本に対してDVDは6819万本で、DVDのほうが5倍売れている。


市場はレンタルとセルに分かれるが、レンタルでは、ブルーレイ138万本でDVDは2838万本である。ブルーレイを借りる人が少ないので、レンタルショップは品ぞろえを控えている。一方、セルでは、1278万本対3923万本である。同じビデオソフトなら実売価格の差は1000円以下に過ぎないというのに、人々は3倍以上もDVDを選択し続けているのだ。ブルーレイのほうが、画質が良いのに売れないのはなぜか。それは、人々にとって第一の選択基準が画質でないからだ。

技術を追求する余り市場を失う経営の失敗については、1997年に『イノベーションのジレンマ』で指摘された。4Kテレビにもその危惧がある。

反論にもう一つ共通するのは、4Kテレビの価格は急速に低下するから普及に支障はない、というものだ。しかし、この十年、日本の家電メーカは価格の急速な低下に苦しめられてきたではないか。量産を得意とする韓国企業に世界市場を奪われてきたではないか。日本の家電メーカが4Kテレビで利益を享受できる成算はあるのだろうか。

反論者は言及していないが、4Kテレビの市場形成に政府が影響を与えようとしていることが大きな問題だ。政府が強い権限を利用して市場を無理やり作り出そうとするのは愚策である。

山田肇 -東洋大学経済学部-