「稼げぬ大学」が「使えぬ卒業生」を量産する

山口 巌

先程、アゴラ記事大学の研究は産業振興に貢献するのかを拝読。


上品に評論すれば「産学連携に関する冷静な分析」。露骨にいえば「産学官のどうしようもないぐだぐだ」といった所であろうか?

それにしても、対米比較悲惨極まりない惨状ではないか?

とにかく大学はちっとも稼げてない。これでは、学生に「どうやって稼ぐか?」、肝心の話を教える事が出来るとはとても思えない。

ユニクロの様な元気の良い企業が、「「稼げぬ大学」が「使えぬ卒業生」を量産する」と割り切って大学一年生で内定を出し、店舗での丁稚奉公を奨励するのも判る気がする。

それでは、一体「産」、「官」、「学」各々の何処に原因があるのだろうか?

先ず、判り易いのは「学」=「大学」である。

自らが開発した技術に絶対の自信を持ち、良い技術であればマーケット調査、販売ルートなど確保しなくても、HPに商品を掲載して少し説明文を入れれば売れると思っている研究者は多い。
経営の専門家ではない研究者をサポートする人材は必要である。

全くその通りである。「良い技術」であっても「市場の評価」がなければマネタイズの可能性は限りなくゼロに等しい。

そして、今一つ、大学の先生方が理解せねばならないのは「市場」の方から先生方に歩み寄って来る事は決してないという事実である。

自分から「市場」に歩み寄り、語りかけ、共感、賛同を得なければならない。これが全く出来ていないのだと思う。

次に、特に、東大や東大に準じる旧帝大の先生方は世の中がこれ程激しく変わっているのに、「変わらない」自分達が「叡智」の中心に居ると、何故か根拠のない自信を持っている。なので、呆れる程変われない。

最後は、大学関係者は問題山積でも何とかなると何故か楽観している。ほら見ろ、「平成24年度補正予算((緊急経済対策)の科学技術関係予算」がついたではないか!という事であるが、苦笑するしかない。

次に、「産」である。大学発の技術に関しては従来より評価し注目していると思う。しかしながら、何分先生方が市場に歩み寄ろうとしないので手間がかかる。結果、産学連携には腰が引けているのではないか?

最後は、「官」である。補正予算の編成となれば何時もの事だが、尤もらしいシナリオを作って予算を取って来る。予算を各大学に配分すると共に、何時もの事であるがちゃっかり「天下り先」を確保する。

「官」の目的は補正予算に便乗(悪乗り)しての「天下り先の確保」であって、決して「産学連携」で具体的成果を達成する事ではない。

露骨にいえば、巧く行けば自分達の「手柄」。成果が出なければ「大学」や「民間企業」に責任を転嫁するに決まっている。

従って、産学官のトライアングルは空回りを続け、投入される補正予算は何の成果も生みださない事となる。「税」の無駄使いである。

それでは、どうすれば産学連携の成功という具体的な「果実」にありつけるのであろうか?

先ず、「税」の投入ありきの様なスキームはもう止めるべきと思う。過去、こういうやり方で巧く行った試がない。「天下り先確保」ありきの「官」は外すべきと考える。

次に、大学の先生方の意識改革も必要と思う。何といっても「市場」を理解し、尊敬し、「市場」に歩み寄らねば話は始まらない。

最後は「産」=「民間企業」である。担当が稟議書を起案して、課長代理、課長、部長、最後に本部長(決裁者)、更には社内の職能部門(財務、審査、法務)が関与する様な長いマネージメントラインでは、時間がかかり過ぎ実用に適さない。

そもそも、高度に専門的な技術の目利きが、これ程雑多な人達に出来るはずがない。

「産学連携」に関しては大企業よりも小回りの利く、小さなベンチャー企業の方が向いていると思う。企業経営者が先ず「技術」を理解し実際の「マネタイズ」の仕組みを企画、考案すべきと思うのである。

私事で恐縮だが、私は月例で勉強会を開催している。今月は27日に「知財を活用した実際のビジネススキームの検証並びに商流拡大時の課題」のテーマで行う積りでいる。

講師は、抗体の研究開発及び商品開発に特化したベンチャー企業経営者で、実際に公立大学に研究開発を委託し、「マネタイズ」の後大学にレベニューシェアしていると聞いている。

講師をお願いしたベンチャー企業経営者が「知恵比べ」、「アイデア勝負」、「スピード競争」と割り切り、一方研究を受託した大学の研究者がそれを理解、賛同したのが成功の秘訣と勝手理解している。

当日勉強会参加者(ベンチャー企業経営者、大企業中堅幹部、大学教授、大学院学生他)と共に詳細を確認する積りだ。

「一隅を灯す」という言葉があるが、こういった成功例が少しでも広まれば良いと考えている。又、主催する勉強会が少しでも貢献出来れば本望である。

※講師や会場を提供戴く方に勉強会趣旨に賛同の上ご協力戴き、参加費無料で開催します。従って、この記事は決して良く目にする宣伝を目的としたものではありません。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役