「ファンド・マネッジメント」については「未開発国」に入る日本の現状は知りませんが、ファンド王国の英、米、スイスでは、「超高収入」を上げられない人は、「ファンドマネジャー」の職に留まれません。
従い、「ファンドマネジャーは高収入?」と言う問いの答えは、勿論「イエス」です。
リーマンショック後は、世論の反発にあって控え目になったファンド関係者の収入ですが、それでも、投資銀行の雄ゴールドマンサックスの2012年度ボーナスを見ますと、32,400 人を数える全世界の従業員の平均支給額はUSドル計算で399,506 ドル(3,700万円)でした。
ゴールドマンの場合、約6千人の英国の従業員へのボーナスの支払いを、税率の下がる翌会計年度(4月1日)まで引き伸ばすと発表し、英国中央銀行総裁や世論の「強欲も度が過ぎ、善良な市民の資格が疑われる」と言う、強い批判を受けて予定通り1月に支払われた経過があります。
英米の他の大手投資銀行のボーナスレベルも、同じようなもので、実業で汗水たらしている一般企業の社員とは比べ物にならない高額収入です。
リーマンショックが世界を苦しめる前年の2007年の記事に「トップ20のファンドマネージャー平均収入は、6億5千7百5拾万ドル(現在の円換算で約6百4億9千万円)で、米国民の平均年収$29,500の22,255倍。中でもヘッジファンドのトップの稼ぎは、毎週60時間労働で計算しても、米国民の平均年収を9分間で稼ぎ、然も、「投資減税」の恩典を利用出来る彼らの収入は、一般国民の税負担より遥かに低い平均15%程度に抑えられています。
そのお陰か、65人のファンド・マネジャーが2011年のフォーブス・ビリオネアーリストの中間入りをしています。
更に特記したいことは、成功報酬制度を採る実業界では、企業の利益がなければボーナスが減るのに対して、虚業のファンドマネージャーの特典は、マネッジしている資産の2%と利益の20%が懐に入る計算になっており、ある程度の資産規模さえあれば、損をしても2%の手数料だけで、巨額な収入を手に入れられる仕組みになっています。
1991年に名門のサロモンブラザースを実質的に破産に追い込んだ債権取引の不正に際して、高名なウォールストリートの経営者が「.何十億ドルと言う巨額が、電話一本で取引されている2兆2千億ドルに上る国債市場では、絶対に正直である事が取引の前提で、サロモンブラザースが嘘をついたとは信じられない」と発言した事がありますが、それは昔話で、今では「正直」とは「度素人」を意味する程、金融界の倫理は荒廃してしまいました。
しかも、金融界で不正が起こるたびに、ロビーが法律改正に動き、従来不正と見做された行為を「合法」に変えてきたのが現実です。
若いビリオネアーを増産する産業に、金融とハイテクがありますが、ハイテクで成功した人々の能力、人格を疑う人は少なくとも、金融で成功した人が高い能力の持ち主である事は信じても、正直だと信じる人は殆どいません。
その証拠には、ファイナンシャルタイムズに金融関係者の犯罪や不正容疑のニュースが出ない日がないのが現在の姿です。
サロモン不正当時の会長を務めていたグッドフレンド氏が、1980年代後半に、ハーバード・ビジネス・スクールで「強欲は金融の強力なエンジンであり、決して羞じる事はない。『金目当てでは動かない』と言う日本の学生でも、金融の自由が認められれば、強欲の魅力に取り付かれる事は間違いない」と講演した事がありますが、彼の予言は当たってしまいました。
英米スイスに比べ金融の弱いEU加盟国は、金融の不正と暴走に歯止めをかけようと必死ですが、金融未開発国の日本もEUの側に立って、金融、特にファンドマネジャーと言う名前の英米スイスの「賭博師」の跋扈を防ぐべきです。
2013年2月5日
北村 隆司