小学生のみなさんにとっては、お父さんお母さんのこどものころの話ですが、「日本が世界のナンバーワンになる」といわれたことがありました。1980年代には日本から輸出する自動車や電気製品が世界にあふれて、世界中から恐れられたのです。みなさんには信じられないでしょうが、今の中国みたいな感じだと思ってください。
日本の競争力があまりにも強いので、円の為替レートが上がりました。昔は1ドル=360円だったのですが、それが80年代には250円ぐらいになり、1985年のプラザ合意で、150円ぐらいまで上がりました。このため、たとえば日本で100万円の自動車はアメリカに100万÷250=4000ドルで輸出していたのですが、1ドル=150円になると、ドル建ての値段を上げないためには4000ドル×150=60万円に下げて、赤字で輸出しなければなりません。
輸出産業は大きな打撃を受けて、「円高不況」といわれました。これを助けるために、日本銀行は公定歩合(日銀の貸し出す金利)を下げました。これによって企業は銀行からお金を借りやすくなり、金余りといわれる状況になりましたが、製造業は円高不況なので物価はほとんど上がりません。そのため政治家が「日銀はもっと緩和しろ」と求め、公定歩合は史上最低の2.5%まで下がりました。
この金余りで、株と土地の値段が急に上がりました。家賃から計算すると100年かかっても元のとれないような地価になり、おかしいなと思う人もいたのですが、「みんなが土地を買うから上がる。上がるから早く買わないと損する」というループが起こったのです。日経平均株価も、1989年12月には38915円の最高値をつけました。これがバブルです。
しかし株価は1990年から暴落し、続いて地価も暴落して、日本経済は大混乱になりました。これがバブル崩壊です。この原因はいろいろありますが、根本的な原因は80年代の後半に株価や地価が日本経済の実力以上に上がりすぎたことです。当時は「東京23区の地価でアメリカ全部が買える」といわれましたが、そんな地価が長続きするはずがありません。最後は実力相応の値段に落ち着くのです。
これは今の状況に似ていると思いませんか? 安倍首相は「日銀に2%のインフレを起こさせる」と約束しましたが、本当に2%のインフレが起こると思っている人はほとんどいません。しかし安倍さんが騒ぎ始めてから3ヶ月足らずで、ドルも株価も2割近く上がりました。これはバブル初期の1984年初めとほぼ同じ水準ですが、当時でも日経平均が9000円から11000円になるのには半年かかっており、今のペースはそれよりはるかに早い。
つまり、すでにバブルが始まっていると思ってもいいでしょう。こういうときは、結果論でいろいろ理屈をつける人が出てきます。80年代にはストック経済論というのがはやって、「地価が家賃の100年分以上になるのは、家賃が安すぎるからで、家賃がもっと上がるべきだ」という人も出てきました。証券会社は「地価が上がったら企業の資産が増えるので株価が上がる」という理由をつけて、株を売り込みました。
こういうもっともらしいが根拠のあやしい「お話」が出て来たときは要注意です。今は「リフレ理論」というのが昔のストック経済論とよく似ていて、学問的にはナンセンスなのですが、結果論としては合っているように見えます。その「理論」に従って買うと、あるときまではもうかるので「この理論は正しい」と思い込んで、みんながもてはやします。今もワイドショーには毎日リフレ派の人が出ていますが、こうなると危険信号です。
結果的には、日経平均はバブル崩壊で1983年の水準まで下がりました。当時の日本企業の収益力は今よりずっと強かったので、今の株価はもう危ないと思ったほうがいいでしょう。ただ参議院選挙までは安倍さんはアクセルを吹かし続けるので、株価は上がると思います。もちろんみなさんが株を買うことはないでしょうが、株を買ったお父さんには「選挙前には売ったほうがいいよ」と教えてあげてください。