昨年8月に国会で改正労働契約法が成立し、新たな規定が設けられることとなった。新設された規定は、改正労働契約法18条~20条の3か条であるが、本稿では4月より施行される18条について取り上げる。
4月1日より施行される労働契約法18条は1項で、「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」と述べている。
これは、巷で「5年で無期」と言われているように、有期労働者が同一の使用者のもとで通算5年超働いた場合、無期転換権を得るというものである(2項に「空白期間」の規定あり)。労働契約法は、「解雇権濫用法理」など、主に判例法理を明文化してきたものであるが、本条は従来の判例法理にはなかったものを新たな規制として条文化したものだ。
この法律の制定により頭を悩ませているところがある。それは大学である。
大学教員、研究者は、授業やプロジェクトなどのために雇用されている有期雇用労働者が数多く存在する。当然のことながら彼等全員を無期雇用することなど大学にはできない。
そのため大学側は、非常勤が無期転換権を得る前に雇止めをしようと考えているが、そうすると大学は毎年カリキュラムの変更を迫られることとなるため頭を抱えている。研究者の側から見ても、成果を出す前に雇止めされてしまう可能性があり、雇用がより不安定になる恐れがある。院生のときからTA、RAとして雇用された場合、5年はすぐに訪れる。また、科研費などで購入した物は大学の所属となるので、雇止めされるとそれらを置いて出て行かねばならなくなる。
日本企業には長期雇用慣行があり、企業の基幹部分を担う正規社員=終身雇用、景気による労働需要に柔軟に対応できる非正規社員=雇用の調整弁という図式があった。企業は有期労働者を多数雇い入れ、労働需要が続く限り有期雇用を更新し続け、需要がなくなったときに契約を終了させて雇用調整をするというかたちをとっており、非正規社員が都合のいいように使い捨てられていたためこのような立法に至ったのであろう。
しかし、大学教員、研究者のように、そもそもの趣旨として、有期雇用であっても雇用の調整弁として雇われてきたわけではない者も存在する。そういった者達に本条の適用は馴染まないのではないだろうか。雇用や労働条件の安定を保障するため、無期雇用で働く者が増えることは望ましいのかもしれない。だが、本条は様々な検討課題を残しており、企業の雇用政策に今後大きな影響を及ぼすことになるだろう。
太田 哲郎(@takkenbiyoushi)