円安は貿易立国などでない日本にデメリット --- 岡本 裕明

アゴラ

2012年の経常黒字が最小になったと発表がありました。経常黒字がなんだ、という方も多いでしょうから一言だけ解説すると、経常収支とはモノを売り買いする貿易収支、旅行などのサービス収支、拠出金などの移転収支、そして、海外の会社からの配当などの所得収支の四つに分類されます。そして日本は長年、貿易収支が大黒柱であったのですが、遂に輸入が輸出を上回り赤字となったことで足を引っ張ることとなり、四つの要素の合算である経常収支で経常黒字幅が大幅に縮んでいるのです。


日本は貿易立国ということを小学校で習った記憶がありますがあれはどうかと思います。貿易依存度は1950年代でもGDPの10%台で今でもその水準を行ったりきたりしています。つまり、日本は圧倒的な内需の国である、という認識をしていただかなくてはいけません。

さて、10%台でも稼ぐ力があった時代はよかったのですが、モノを売買する貿易収支は遂に買う方(輸入)が上回り、赤字となりました。要因はさまざまですが、原発が止まり、電力などに供給する燃料の購入が増えている上に円安で更にそのコストが嵩むことがそのひとつでしょう。

つまり、私のブログで何度か、指摘していますが、貿易立国とはいえない日本が円安に誘導するのはそれほどおいしい話ではないのであります。

ところで四つの指標のうち、いまや黒字なのは所得収支だけとなりました。これは順調に増えています。理由はM&Aを通じた海外子会社からの収益や配当、海外への投資リターンなどがあげられます。つまり、それまで日本で作っていたモノを海外で作ることで貿易収支ではなく所得収支に入れ替わったと考えればよいかと思います。

多分ですが、この傾向はしばらく続くはずです。日本でモノを作るいわゆる「国内回帰」が生じるほどの急変は予想できる範囲内ではあまり可能性はないように思えます。以前、ロボット化で人件費を絞り込み国内産業の空洞化の防止という話があり、事実、一部の工場ではそのような試みも行われています。ただし、ロボットが普及するにはもう少し時間がかかる気がします。それとロボットの製作コストが新興国の人件費に負けるということもあるかと思います。

経常黒字の縮小化、貿易赤字の顕在化はある程度予想できたわけですから、これは産業構造の変化であると素直に認めるべきでしょう。日本が経常赤字になるにはもう少しかかると思いますが、今のペースで行けば数年後には所得収支のプラスを全部食ってまだ、貿易収支が赤字ということも起こりえるかもしれません。そうなれば、貿易立国ニッポン、つまり国内回帰への動きが出てくることもありえるかもしれません。

安倍政権の発足から明らかに日本を取り巻く色合いは変わってきています。今まではお祭り騒ぎでしたが、向かっている方向が手放しで正しいのか一拍おいて考えてもよいかと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年2月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。