日経平均の根拠なき熱狂

池田 信夫

ゆうべのアゴラチャンネルでは、小幡績氏と一緒にアベノミクスのゆくえを考えた(アーカイブで見られる)。彼も指摘していたが、最近の日経平均の動きは為替に比べても上ぶれしており、これは日本経済の実態を反映しないバブルである。


今まで日本株は出遅れていたので水準訂正するのは理解できるが、日経平均はPERでみると25倍を超えており、NYダウ(12倍)やFT100(11倍)の2倍以上である。収益が今後、劇的に改善するとすれば株高も正当化できるが、円安のメリットは日経225に大きく組み入れられているグローバル企業に片寄っており、日本経済全体の指標にはならない。

安倍首相の頭には、彼が前に首相をやっていたころの円安による好景気のイメージがあるものと思われるが、そのころと今の日本には大きな違いがある。日本は今や貿易赤字国なのだ。昨年の貿易収支は5.8兆円の赤字で、円建て輸出額よりドル建て輸入額のほうが多い。したがってドル高によって貿易赤字は増えるのだ。

しかし受益者が財界主流の大企業だから、円安の被害者の声はあまり出てこない。最大の被害者は消費者である。ここ3ヶ月のドル高によって化石燃料の輸入額は2割ぐらい上がり、4兆円以上が吹っ飛んだ。この影響は経営の悪化している電力会社だけではなく、すべての製造業に薄く広くきいてくる。2008年の前半にCPI上昇率が年率1%を上回ったのは原油高が原因だが、そういう輸入インフレが起こる可能性がある。

労働者も被害者だ。浜田宏一氏が正直にいうように、インフレは労働者の実質賃金を下げる所得政策の一種であり、彼らから企業に所得移転する政策だからである。安倍首相はそれも知らないで企業に賃上げを要求しているが、経営者が応じるはずがない。そもそも日本の名目賃金は下がって失業率は低いのだから、さらにインフレで賃下げする必要なんかないのだ。

安倍氏や浜田氏の頭には日本が貿易立国で外貨を稼ぎ、高度成長で毎年ベースアップが行なわれた時期の残像がまだあるようだが、もう日本経済は変わってしまったのだ。これから今までの蓄えを食いつぶして生きてゆく日本人が円安を喜んでいるのは、年金生活者が年金の目減りを喜んでいるような滑稽な光景である。