ブラック企業のすすめ – やりがい搾取 の続きです。
■日本人であるということは搾取してる
私は1年ほど上海の外れに赴任していたことがあります。
ちょうど円ドルが79円を付けた頃で、「日経新聞にヤオハン(覚えている人いるかな……)が出ない日はない」程度には中国は注目されていましたが、実際に、中国が今のように発展すると本気で思っている人がどれだけいたか……、という時代です。当時、私がいた会社で工員の月収が900元(約10,000円)、マネージャクラスで2,000元(約23,000円)ぐらいだったと思います。私より20歳以上も年上の優秀なマネージャが「日本製のビデオが欲しい」と、言いながら働いているのに、何も出来ない私が苦もなく買えてしまうのは、「搾取以外の何物でもない」のです。
優秀なマネージャが、そんな給料で働いているのに、何も出来ない私に、「運転手(営業担当の社員ですが)付きのクラウンを使え」と言われます。当時の日本車に対する関税は170%(2.7倍)でしたから、田舎ではそれなりの高級車でした。
同じ地域に赴任していた日本人のほぼ全員がホテル住まいでしたが、私は工場の上の居室に住んでいましたし、現地の工員と同じ食事をしていましたから、そんなに良い暮らしをしていた訳ではありません。(太って帰ってくるとは、どんだけ図太いねん!って笑われるぐらいで……)
「車は、事故など起こされてはかえって困るから」という配慮でしかないのですが、それでも私には使えないので、自転車とバスを利用していました。
あるとき、自分の部屋のトイレットペーパーがなくなりかけていたので、自転車で街に出たついでに買って帰りました。
これが、「恥ずかしいから辞めて欲しい」と大変な不評を受けます。
田舎ですから、「変わった日本人が来た」と、多くの人が私のことを見ていたのですね……。
当時の感覚では、欧米系企業には若干落ちるものの、日系企業に勤めることはそこそこのステータスでした。もちろん、現地の水準よりは高い報酬を払っていたけれど、それだけじゃなく誇りも感じてくれていたわけです。
(誇りを持つなら、品質の方で持って欲しかった……)
私にとっては、本社自体が大阪の小さな町工場ですから、ステータスはマイナスとは言わないまでも、大きく誇れるほどでないので、意外でした。
「やりがい搾取」という言葉は当時にはありませんでしたが、ある意味、やりがい搾取も利用して搾取していた訳です。駐在員の私は「やりがい搾取」のために「良いところのボン」のように振る舞うべきだったかも知れません。
今の中国では日系企業にそんな感覚を持つ人はほぼいないでしょうが、チャイナプラスワンと言われるASEAN諸国では、同じじゃないですかね。
■日本に生まれたことは能力じゃない
当時、私がいた地域には、常時50人ぐらいの日本人が常駐していましたが、40代もほとんどいない。50~60代がほとんどで、私のように20代前半の独身男性はいませんでした。
隣町の日本人が定宿にしているホテルに遊びに行ったとき、私はできもしない上海語(普通語とはかなり違う)を使っていたため、20代の日本人はいないと思っていたそこの従業員は、私を別の地方から来た中国人の通訳と思っていたようです。そう思われている間は、ホテルの従業員は中国人特有の愛想の悪い対応でした。
「あんたみたいな田舎もんが上海語を使っても、相手にするわけないでしょ!」っていう態度に見えました。
しかし、何度か行ってる間に、他の日本人が私を「隣町の会社に来た日本人」と説明してしまった瞬間、彼女たちの態度は一変です。日本語を勉強しているという若い女性は、ハートになった目で、「わぉ、あなたは日本人だったの?あなたはとってもハンサムになりました!」と完璧な日本語で返してくれましたorz。
それ以来、ホテルの女性従業員は、中国ではあり得ないぐらい良い愛想になりましたけど、彼女たちの素朴でストレートな表現はある意味厳しかった。私には「日本に生まれた」以外に能力がないということを、これでもかというほど思い知らされた訳です。
余談ですが、まあモテますけど、買い物をした内容が噂になる田舎で気安く手を出すわけにも行かず、ツライ生殺しの日々を送りました。
■コンビニ、飲食店のアルバイト
餃子チェーン「珉珉」会長ら2人を逮捕 入管難民法違反の疑いで大阪府警
調理師の在留資格で入国した中国人を接客係として働かせたとして、大阪府警外事課などは30日、入管難民法違反の疑いで、餃子店をチェーン展開する「珉珉(みんみん)本店」(大阪市浪速区)の会長、古田曉生(ぎょうせい)(63)=京都市伏見区=と、同社の元専務、粟野徹雄(63)=京都府綾部市=の両容疑者を逮捕した。いずれも「5~6年前から求人難に陥り、違法に従業員を確保しようと思った」などと容疑を認めている。
逮捕容疑は平成20年1月~今年9月、同社が直営する大阪市内の3店舗で、調理師の在留資格で入国した33~36歳の中国人女性3人を接客係として不法就労させたとしている。
府警によると、粟野容疑者が19年ごろ、「ブローカーに頼めば中国人を派遣してもらえる」と古田容疑者に進言。4年前から、東京都内のブローカーの男を通じて従業員を確保していた。同社の直営店には約40人の外国人従業員がいるとみられ、府警は余罪を調べている。
「珉珉」の給料が高いとは思えませんが、少なくともブローカーに金を払ってでも人を集めないといけないほどの求人難ではあったようです。この就職難の状況にあっても、日本人が「ブラック」と敬遠するレベルの条件だったのでしょう。
都会に住んでいれば、コンビニや居酒屋でのアルバイトをする留学生を見ることは少なくない。彼(彼女)らにとって、日本語は第二外国語の場合も多い。つまり、日本語より英語の方が得意なトリリンガルの人も少なくないのです。彼らは日本の若者よりも、あらゆる点で恵まれていませんが、それを乗り越えるバイタリティがある。
多くの日本の若者よりも能力は遙かに高いです。
留学生の中には、日本のサービスを理解できてない人もいるように思えますが、日本のサービスや文化を吸い取って帰国した人の中には、大成する人は少なくないでしょう。
彼らの中には「ブラックな日本に搾取されている」と思っている人もいるわけで、近い将来、今、コンビニでバイトをしている留学生が、日本人を使う立場になっているのでは……。
彼らを見て、「『ブラック企業に搾取される』と言ってる余裕はない」と、思わない人は危ないでしょう。
「日本に生まれたこと」を能力と思っていませんか?
「日本に生まれたこと」で、自動的に「世界中から搾取する」立場になったのですけれど、それは、決してあなたの能力が高いからではありません。単なる幸運で、その幸運は、長く続かないことは確定しています。
これからは純粋な能力で優劣が決まる時代になります。
ですから、「ブラック企業かどうか」ではなく、「入社して自分の能力が上がるかどうか」で選ぶべきでしょう。
もちろん、向き不向きはありますから、万人に「ブラック企業」は向きませんが、多くの留学生がもっと苦しい環境に耐えているじゃないですか、彼らとの競争は既に始まっているのです。
彼らを競争相手と思えないのは、「『日本に生まれたこと』を能力である」と勘違いして、上から目線になっている証拠です。能力では既に負けているのですから、近々、イニシアチブは埋められてしまいます。
「日本に生まれたこと」で、日本人は世界中から搾取していることを忘れて、「ブラック企業に搾取される」なんて言っても、何も始まりません。
株式会社ジーワンシステム
生島 勘富
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