著者:野口 悠紀雄
販売元:ダイヤモンド社
(2013-02-01)
★★★★☆
著者には80年代のバブル期に何度も番組に出てもらったが、一貫して「現在の地価はバブルである」という立場だった。当時そう断言したのは、彼と長谷川徳之輔氏だけで、日経新聞は「内需関連株」のブームをあおっていた。どちらが正しかったかはいうまでもないが、日経が謝罪したのは聞いたことがない。
今回も、著者の立場は一貫している。日本はそもそも貨幣的な「デフレ」ではなく、新興国との価格競争や情報技術革新などによって相対価格が下がっているだけだから、日銀がいくら量的緩和をしても問題は解決できない。
ではなぜ日銀は追加緩和を繰り返しているのだろうか。著者は、その目的は財政ファイナンスだという。国債が順調に消化されるのは長期金利が低いからだが、それは日銀の大量購入で支えられている。つまり量的緩和は日銀のマネタイゼーションをカムフラージュしているのだ、というのが著者の仮説である。
量的緩和が意図的なマネタイゼーションかどうかは議論があろうが、結果的にそれが邦銀に安心感を与え、間接的な財政ファイナンスになっていることは確かだ。しかしこのシナリオが崩れる可能性が一つだけある。それは皮肉なことにインフレである。
もし安倍首相の望む2%のインフレ予想が起こると、最初に起こるのは長期金利の上昇である。0.8%の長期金利が2.8%になったら、銀行は大きな評価損をこうむる。長期金利が1%上がると6.4兆円の評価損が発生し、地方銀行では損失が業務純益の5倍に達して自己資本を大きく浸食する。
その場合も日銀が国債を無制限に買い続ければ、金利を抑えることができるが、日銀に巨大なリスクが蓄積する。これによって大量の通貨が発行されるので、何かのきっかけでインフレ予想が高まると、銀行の国債売り逃げ→金利上昇→大幅な評価損→売り逃げというループが起こる可能性がある。
それがいつ起こるかはわからない。一部のヘッジファンドがいうように今すぐ国債バブルが崩壊することはないだろうが、ここまで来ると日銀はもう引き返せない。財政危機が深刻化すればするほどリスクは日銀に集中し、国債市場が崩壊したとき日銀が債務超過になって通貨の信認が崩壊するリスクが高まる。本書もそういう破局がいつ来るかはわからないとしているが、破局を早めようとするアベノミクスは自殺的な経済政策である。