量的緩和という時限爆弾

池田 信夫

1月のFOMCで「出口戦略」が検討され始めたことがマーケットで話題になっている。ダラス連銀のフィッシャー総裁は「量的緩和の効果を疑問視するのはもはや私だけではない。自分よりもずっと優秀な人たちからも疑問の声が上がっているのは非常に喜ばしい」とコメントした。


アベノミクスをはやす人々はデータも見てないようだが、Woodfordがこの4年のQEの経験をまとめていうように、狭義の量的緩和もリスク資産の購入も効果がなかった。これは日銀の量的緩和でも証明された歴史的事実であり、今ごろ周回遅れで「大胆な金融緩和」をしても、プラスの効果は何もない。

しかしマイナスの効果は大きい。野口悠紀雄氏もいうように、QEで過剰供給されたドル資金が南欧諸国の国債に向かってユーロ崩壊をまねいた疑いが強い。かつて日本の量的緩和がアメリカの住宅バブルを促進したのと同じだ。さらに深刻なリスクは、日銀の資産の劣化である。日銀の保有する国債は、昨年9月末で105兆円。日銀の自己資本は約5兆円だから、国債価格が5%下がっただけで債務超過になってしまう。

ただ日銀は普通の銀行とは違うので、債務超過になったら政府が資本注入できる。日銀の保有する国債を変動利付債に転換するなどの解決策もあるが、これは実質的な財政支援である。植田和男氏は、このような日銀の金利リスクを検討した結果、日銀の破綻を回避することは可能だが、それは最終的には納税者の負担になるとしている。

これはゆるやかに金利上昇が起こった場合だが、日銀の金融システムレポートによれば、多くの市場参加者が「海外要因による急速な金利上昇」を心配している。FRBのQE終了はその引き金になる可能性もある。長期金利が1%ポイント上昇すると日本の銀行・信用金庫は8.3兆円の評価損をこうむり、自己資本が大きく浸食される。

日銀が無限に国債を買い続ければ、ある程度までは金利を抑制できるが、それがマネタイゼーションだとみなされると銀行の売り逃げを誘い、売りが売りを呼ぶ。銀行が大きな金利リスクを取っているのは金融村の「空気」で支えられているからだが、山本七平もいうように、空気が変わるときは一挙に変わる。銀行は慈善事業ではないのだから、金利が上がったらメガバンクは優良な融資先に資金を移して逃げるだろう。

しかし日銀は逃げられない。2%のインフレ目標があるため、国債の保有残高を減らせないからだ。むしろ政治家は「追加緩和で金利を抑制しろ」と要求するだろう。出口戦略なき日銀は、巨大な金利リスクを一方的に蓄積する「時限爆弾」なのだ。