最近は若い人の間で、一風変わったというかイタい感じの人名や団体名を「キラキラネーム」と言うそうだ。そういえば去年の7月、「国民の生活が第一」という新党が出来た時、宇多田ヒカルさんがツイッターで「ついに政党の名前にもキラキラネームきたか…」と呟いていたっけ。
で、昨日の日経電子版で一時ランキング首位だったのが「キラキラネーム」ならぬ「キラキラ女子」の記事。サイバーエージェント(CA)の成長の原動力となっている女子社員を取り上げているのだが、キラキラした側面を強調し過ぎているトーンに、なーんか「キラキラネーム」的な釈然としないものを感じたんだよね。
あ、CAさん自体は私、評価してますよ。今年9月期の業績予想はコスト増を見込んでいるようですが、基本的に会社自体はここまで伸びてきてるし。個人的にも元在籍者で存じ上げている方々は起業で成功した人など総じて優秀な方々が多いと思う。元野球記者としては、CAにプロ野球参入もいつかやっていただきたいと密かに期待している。
件の記事は取材もよくされていると思います。取材対応で選び抜きまくった女性を取りそろえたのでしょうが、その優秀さには舌を巻くばかりで、もうご飯が食べられないかと焦ったくらいだ。子会社社長で、同社初の女性取締役と目されている31歳の方は、「公共放送、3大出版、某大手広告会社、某メガバンクなどそうそうたる大手を中心に18社から内定を得たという武勇伝の持ち主」(記事より)だそうだ。不肖のわが身と比較するのも畏れ多いが、大学を留年した末に新聞1社の内定を取るのがやっとだった私は、記事で紹介されている才女たちがキラキラし過ぎて、もークラクラしてしまった(汗)。
でも、クラクラした理由はそれだけではない。記事が、まるで宣伝広告用で出稿されたのか見まがうばかりに、ほぼイケイケのトーン。執筆した井上理記者は、日本の新聞社で恐らく五指に入るだけのITリテラシーの高さを誇る書き手だ。いや、大変尊敬していますよ。紹介された女性社員がどんなお仕事をしていて、どんなバックグラウンドを持っていて、どんなにキラキラしているのか、よく取材されているし、アナログメディア文化に塗れた私にも分かりやすい。
●「喜び組」記事との際立つ違い
それでも何かむず痒さがあるのは、キラキラした女性を活用しているキンキラキンの側面しか見えないからだ。女性の職場としてのCAを取り上げた同じ記事でも、このマイニュースジャパンのレポートとは実に対照的だ(全文は会員制。ただしDigestで概要は分かるはず)。CAが一時期、ネット上で「喜び組のような会社」と揶揄されたのは、多分この記事のせいかな。。。まあ、書き手は、激辛の筆致で知られるジャーナリストの渡邉正裕さん。いまや『10年後に食える仕事 食えない仕事』がベストセラーになってネット界以外でも有名人になられたが、視点が日経新聞と際立って違うのは当然だし(ていうか日経で激烈な辞め方をなさったし・・・汗)、記事は3年前のことだから社内の様子がかなり変わったのかもしれない。
まぁ二つの記事を比較するのは酷なので、その辺にするとして、CAがIT業界でも際立った才女を登用しているあたり、世間のモデルケースになる部分はあるだろう。ただ、日経新聞電子版という「天下の公器」で論評する以上、女性の人材活用に悩む他の企業がもう少し身近に参考になるような視点も欲しい。日本は去年の秋、IMFの年次総会を開いた際、来日したラガルドのおばちゃんが滞在延長してNHKの「クロ現」に特別出演して叱咤したように、先進国でも特に女性の人材を活用できていないのだ。そういう状況だからこそ、CAの記事では、キラキラの裏でドロドロに苦闘したお話はもちろん、産休、育休といった問題にどういうマネジメントで対応しているのか?キラキラ社員との社内競争に敗れた、グダグダの「負け組」女子に雪辱の機会があるのか?――非常に興味がある。
●続きが楽しみです
ライター活動と並行して、中小ベンチャー企業の広報業務も扱う人間が天下の日経新聞のエース記者がお書きになった記事を論評するのは、随分不遜なことをしちゃったなぁ~。広報やPRを専業で生業とされる方は「こいつ何やってんの、バカじゃないの?」と思われるでしょう。しかし広告と違う報道の価値は、企業をポジとネガ両面からフェアに論評するところだ。私自身、そうした「第三者」視点を大事にして企業側に日頃いろいろ提案をさせていただいてます。その意味では、ここまで「超ポジ」の論評をしてもらえるCAの広報さんが羨ましいぞ(笑)
記事は全3回の連載で、「サイバーエージェントに集結するキラキラ女子の謎を解き明かしていく」そうだ。残り2回でどんなお話が読めるのか、とても楽しみにしている。
新田 哲史(にった てつじ)
Q branch
代表 メディアストラテジスト
※加筆(13年3月2日)・ツイッター始めました。