日本人はなぜ、土地を手放さないか? --- 岡本 裕明

アゴラ

日本と外国で不動産という世界を見ていると面白いことに気がつきます。それは、日本人は不動産を死ぬまで手放さない傾向が強いのであります。外国の場合には相続の仕組みによって違いは出てきますが、土地にそこまで愛着はなく、売る時はさっさと売る、というのが私の認識であります。


ではなぜ、日本人は土地にそこまで愛着を持っているのかといえば日本は歴史的に小作農が土地を所有できたということが大きいのかもしれません。欧米では資本家と労働者階級に分かれるのですが、資本家は通常、土地を持ち、その土地で農民を働かせるいわゆる農奴を通じて搾取をするというのが大まかな歴史の流れであります。つまり、小作農が自分の土地を持つというスタイルはなく、あくまでも大資本家のもとで働かせてもらうという流れでありました。

ところが日本の場合には歴史的に小作農でも自分の土地を持っています。町民も自分の土地を持っています。では領主はどうだったかといえば案外、町民から借りていたりしていたりもします。領主は農民から米という年貢を徴収する権利(課税権)は持っているものの土地はさほど所有していないのであります。考えてみれば戦国時代などは領主が次々と入れ替わったりしたわけですから土地の所有者もそのたびに変わっていたら農民もやっていられないでしょう。

面白いのは年貢は米であって野菜ではだめだったということです。長男は家を継ぎ、米を作るが、次男以下は長男と一緒に仕事をしない限り外に出て行く、そして、野菜を作ったりするわけですが、領主からはその場合、評価されないということのようでした。

さて、日本人の場合、小作用の土地を所有するといってもむしろ、それは天から与えられた仕事をまっとうするための仕事場であって所有権を強く主張するような意味合いではなかったと思われます。結果として、農家の場合、土地は預かりもの的発想が強く、結果として先祖代々の土地は売れないという考えに繋がっていくのかと思います。

これが農家だけではなく一般住宅に対する土地認識にも発展したとすれば住宅は一生のもの、仮にウサギ小屋のような土地でも自分の土地なれば愛着を持って死ぬまで手放さないということになっても確かにおかしくはないのかもしれません。

北米にいて思うのは会社でも土地でも売却に踏み切る決断は論理的であるような気がします。その結果、M&Aや土地の新陳代謝が起きやすく、結果として経営の効率化が進んだり、都市開発がスムーズに進んだりするのでしょうか? よく言われるように北米は土地がたくさんあるから日本とはその価値観が違うという点も確かにあるでしょう。ですが、土地所有に対する割り切り感については日本とは比べ物にならないような気がします。

今日はこのぐらいにしておきましょうか?


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年3月1日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。