来たるべき相続税増税時代にどう行動すべきか --- 岡本 裕明

アゴラ

日経ビジネスの特集、「庶民(あなた)が相続税を払う日」。同誌がこの特集を組むのはたしか二度目のはずです。一度目は民主党時代に相続税を4割上げる案が出た際だったと記憶しています。今回、自民党主導の相続税率引き上げは民主党時代の素案がほぼそのまま生かされています。


私は前回の廃案後、日本の不動産業者にこの法案は3、4年後に戻ってくる、と指摘したのですが私が何を根拠にそういっているのか、まったくちんぷんかんぷんの顔でした。理由は税収確保であります。そして日経ビジネスで指摘しているとおり、日本国には法人税や所得税の脱税者も最後、ここで捕らえられる仕組みが出来上がっております。

さて、同誌には相続税が課せられる可能性として「東京23区内は4人に1人の衝撃」とうたっています。またその高い確率の条件として親が首都圏に持ち家、片親は他界、一人っ子、子供は持ち家としています。

私の見立てはこんなものではないと考えています。つまりもっと広い範囲で課税されると見ています。

まず、基礎控除は3000万円プラス600万円x相続人数であります。少子化が進む中、昔のように5人も6人も兄弟がいるところは珍しく、せいぜい2人ぐらいでしょうからそうならば、基礎控除はわずか600万円増えるだけです。つまり、一人っ子も兄弟二人も大差ないと見ています。

二つ目に日経ビジネスでは多分、カウントしていないと思いますが、生命保険がネックになると思います。いま、それなりの歳の人はかなりの確率で生命保険をかけています。当時、ブームだったのです。これが転がり込んでくると数百万から数千万円が別に出てきてしまうのです。

また、高齢者は意外と溜め込んでいるものです。知らないところで定期預金がごっそりとか、上場株式が出てくるということもあるのです。

結果として現金が出てくれば相続対策はある程度できると思います。ですが、相続人に現金がない場合、不動産売却の選択はやむをえなくなると思います。そして、日経ビジネスのポイントは庶民にも相続税でしたが、私は東京でビル経営やアパート経営などを営んでいる個人の不動産持ちの相続人が非常に厳しい状況に追いやられると思います。

ではどうすればよいのか、ですが、日経ビジネスはなぜか、非常に「らしくない」結論を提示しています。それは「相続しないこと」で「自分で稼いだ金は使い切る」としています。個人的にこの結びは奇妙に感じます。2015年の相続の話で相続をするな、使いきれ、というのは非現実的であります。

では私ならどう考えたか、ですが、あるビジネスの仕組みを作り上げたらよろしいのだろうと思います。そのスキームですが、まず、高齢者が一定年齢になったところで手持ち不動産を信託銀行に売却します。その際、売却した不動産に売主である高齢者がそのまま引き続き賃貸で居住するという条件とします。これにより所有権は信託銀行に、そして売主はそのまま自宅で過ごすことが出来ます。その際、信託銀行は売却代金の引渡しに関して信託銀行が預かり、運用し、賃料相当は預かり資金から引き去る仕組みにします。つまり、売主はお金のことを心配しなくてもよいわけです。また、これは信託銀行の資金負担を軽減させるためにも必要です。あるいは信託銀行が第3者に当該不動産を売却する場合には信託銀行が不動産運用委託契約を確保することが必須となります。

実はこれに似たスキームはリバースモーゲージというのがあります。これはただ、不動産の所有権は当該高齢者にありますが、私が提案するものは現時点で売却してしまうというものです。これにより、リバースモーゲージのような金利が発生しないメリットがあります。また、登記などの諸費用もかからないはずです。

なぜ、高齢者は生存中に不動産を売却すべきかといえば相続人が複数になる場合、必ずその取り合いで醜い争いが生じるのであります。それは親の目から見れば子供たちがそんな馬鹿なことを、と思うのでしょうけど、子供たちもそれぞれの人生を歩んでいますからそれこそ骨肉の争いはおきやすいのであります。ならば所有不動産は売却し、キャッシュとし、例えば相続税は信託銀行が代理納付し、残りを相続人がキャッシュという分配しやすいもので取り合えばよいのです。

欧米ならともかく、日本は相続により資産はなくなることになってます。これは日本の歴史であります。ならば、なくなる資産で内輪もめするより親がさっさとその揉め事の原因となる固定資産を売却することが平和な家族関係維持のための方法だと思います。

私もとんでもないことを言い出す、と思われるかもしれませんが、多分、この発想は数年後に面白い、と思われる時が来るような気がしております。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年3月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。