安倍首相は「危機突破内閣」とかいって、「デフレ脱却のためにはなんでもする」と張り切っています。「景気対策」として13兆円の補正予算が組まれ、日銀を脅してインフレを起こそうとしていますが、今は不景気なのでしょうか?
不景気というのは、景気が悪いことです。景気の目印としてよく使うのは経済成長率で、上の図はここ20年の実質GDP(国内総生産)の成長率です。2008年には大きく落ち込んで不景気になったものの、その後は急回復して、去年は年率2%と、アメリカと変わりません。そのアメリカではダウ平均株価が史上最高になっているのに、なぜ日本だけが「デフレ不況」とか騒いでるんでしょうか?
それは政治家のみなさんが、かんちがいしているからです。次の図は2000年代の成長率で、左(経済全体)では日本の主要国で最低ですが、まん中(一人あたり)では平均ぐらいで、右(生産年齢一人あたり)では最高です。生産年齢人口というのは大ざっぱにいうと働ける人の数ですから、日本人は世界で一番よく働いているのです。
2000年代の経済成長率(日銀調べ)
しかし日本では戦後のベビーブームで人口が急増し、そのあと出生率が急に下がったため、1940年代後半に生まれた「団塊の世代」と呼ばれる人々が退職するにつれて、今は毎年0.7%ずつ労働人口が減っています。特に働いている人は子供がいて消費も多いので、お年寄りが増えると社会全体がなんとなく元気がなくなります。政治家はそれを「デフレ不況」と取り違えているのです。
だから大事な問題はデフレでも不況でもなく、働く人が減って働かない人が増えていることです。今は働く人3人で働かない人1人を支えていますが、2023年には2人で1人を支え、みなさんが大人になる2050年には働く人1人でお年寄り1人を支えなければなりません。みなさんの収入の半分以上は税金と社会保険料に取られてしまいます。
これは宿命ではありません。働く人が減っても労働生産性(一人当たりの売り上げ)を上げればGDPは減らないし、社会保障制度を改革すれば、みなさんとお年寄りの極端な不平等も直すことができます。安倍さんが「デフレ脱却」ばかりいっているのは、そういうむずかしい話をすると夏の参議院選挙で負けるからです。よい子のみなさんは、甘いことだけいう政治家にだまされてはいけません。