ユニクロの未来を予想してみる

山口 巌

一昨日、ユニクロというエクセレントカンパニー昨日、ユニクロの柳井正社長は嘘つきなのか?をアゴラに投稿。


辻先生を筆頭に多くの方より実に貴重なコメントを頂戴した。このアゴラの場を借りてお礼を申し上げたい。

そして、戴いた意見に対する私の所感としてこのエントリーをまとめ、「ユニクロ」関連は一旦の終結としたい。

ユニクロの未来を予想するに際し、先ず考えねばならないのは、過去何度も取り上げたリアル店舗が直面するEC(アマゾン、楽天他)の挑戦である。

今日のブロゴス記事、NTTドコモも参入! 楽天・アマゾンがアパレル通販でも2強 専業アパレルは倒産危機!? が実に生々しい!

家電量販がそうであった様に、指を咥えて傍観しておれば店舗販売の「アパレル」も市場を大きく浸食され、やがて野垂れ死にの淵に立たされる事になるに違いない。

とはいえ、対抗策として何か秘策があるか? という事になるが実に難しい。

常識的な着地点としては、「魅力のある商品」の開発という結論であろう。表だって誰も反対出来ないが、問題は、誰が?どうやって?実行するんだという事だと思う。

多分、ヒートテックに見られるような「新素材」、「新合繊」を上手に商品化する事が今後のキーになる様に思う。従って、合成繊維メーカーの開発責任者や担当で優秀且つ柔軟な人材が高給でスカウトされる事になると予測する。

こういった外人部隊と従来の社内組織の調整、橋渡しをする人間も必要となる。従って、この分野で若者の「活躍の場」が増えるはずである。

次いで、「新商材」をフックに従来ユニクロの店舗に来店しなかった層に、どう訴求し、リアル店舗来店への導線を貼るかがポイントになる。

効率的なプロモーションの企画可能な人材が必要となる。同業他社からの引き抜きも活発化すると予想する。

最後はコストがかかるリアル店舗の生産性向上という事になる。店舗の運営コストが不要なECと競合せねばならないからである。

露骨にいってしまえば、売り上げを伸ばしつつ、コストを下げるといったアクロバット的な施策をやらざるを得ない。

その結果、今回問題指摘された「店長」の負担は更に重くなり、年収は増えない。

従って、ユニクロに職を得ようと考える若者はその辺り予め「覚悟」する必要がある。

最後に、今日の辻先生のユニクロの高い離職率が意味するものについて二つの所見を述べて、このエントリーの結びとしたい。

先ずは、高い「離職率」は問題なのか?である。

勿論、左巻き脳の労働組合関係者は問題と回答するに決まっている。

半世紀に渡り、同じ様なやり方で仕事を処理して来た地方公務員も問題と解答するであろう。

しかしながら、民間企業が今直面しているのは劇的なまでの彼らを取り巻く環境の変化である。

変化に対し適切に対応出来ねば企業は確実に破綻する。

変化を先取りし、先に先にと施策を策定し、迅速に実行に移さねば企業の成長など夢のまた夢でしかない。

従って、民間企業にあっては昨日の「エース」、「稼ぎ頭」が今日の「落ち零れ」になり果てるのは特段珍しい話ではなく、寧ろ当然という事になる。

一旦退職し、もっと力の発揮出来る職場に移動して何が悪いのか?というのが、私の率直な疑問である。

変に離職率に拘泥し、「人材の流動化」に抵抗するのは「角を矯めて牛を殺す」愚行といっても良いかも知れない。

或いは、大学関係者から良く聞く話として、大学では一旦、教授、准教授といった「身分」を手に入れると定年(65才?)まで安泰というのがある。

研究もせず、結果論文も書かない(研究しないから書けない)人間がごろごろいるらしいが、例えば三年毎に研究成果を審査し、遊んでいる人間を馘首すれば若くて有能な研究者に取って道が開ける事になる。

若い研究者に相応しい「職」がなく、プータロー、ニートに甘んじているとするならば、寧ろ、働かない教授、准教授の離職率の低さこそが「人材浪費」の根幹ではないのか?

今一つは、この指摘である。

私は、ユニクロの経営システムそのものを批判しているのではなく、実態と乖離した「世界一へ、グローバルリーダー募集」といった、プロパガンダを掲げた人材募集の方法に問題があると言っているのだ。

「羊頭狗肉」という言葉は随分と古いくからある。従って、こういう事は人類の歴史と共に始まったに違いない。

勿論、「嘘」であれば詐欺罪で立件されるべきと思う。

一方、「グローバルリーダー」とやらに続く道が、細く棘の道であったとしても現実にあるのなら、左程目くじらを立てるべき話とはとても思えない。

何といっても対象が二十歳を超えた大学生。良い大人である。

寧ろ、判断力のない年少者を狙い撃ちにし、高額な使用料の課金を止めようとしないソーシャルゲーム会社への規制が優先されるべきであろう。

そして、そもそも日本社会は企業経営者のスピーチにそれ程神経質に対応して来たのか?

昨年元旦の私のエントリー、新入社員に贈る7箇条、の第一条で新入社員の先ずやるべきは社長スピーチの無視と若者には伝えた積りである。

問題は、それだけではインパクトがないと言う事で、3年前から採用したスピーチの締めくくりの、「新入社員には、思い切り現場を掻き廻して欲しい」というフレーズである。

このフレーズは、「チャレンジする名門企業」というイメージで、新聞や系列のテレビ局に評判が良い。従って、経営者は必ず入れたがる。

困った事は、「新入社員には、思い切り現場を掻き廻して欲しい」というフレーズが株主へのIRであったり、対顧客PRである事を理解せず多くの新入社員が職場で実践してしまい、不幸な結果になる事である。職場は、勿論様子が判るまでは、「余り波風を立てず、手を焼かすなよ」としか考えていない。

結果、入社式の時は目を輝かせていた新入社員が5月の連休明けともなれば、死んだ魚の様な眼をして出社してくる事となる。5月病なのではないのである。

個人的には、この手のスピーチを垂れ流して来たマスコミの業も深いと思う。しかしながら、この辺りは個人によって意見が分かれる所であろう。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役