東京都杉並区立和田中学校。かつて民間出身の藤原和博さんが校長を務め、地域に開かれた授業「よのなか科」で一躍有名になった学校です。
同じく民間出身の代田校長先生に呼ばれ、田原総一朗さんとともにデジタル教育の是非について討論する授業をやってきました。
もちろんぼくは賛成派。これに対し、田原総一朗さんは「デジタル教育は日本を滅ぼす」という本を書かれ、反対派の代表でした。以前、ニコ生の番組でも二人で激論したことがあります。田原さんの主張は、デジタルにすると画一的な○×教育になり、先生が排除されるというものでした。いや田原さん、デジタルは電卓ではなく、twitterのように、多様な考えの人たちと一つではない答えを巡り、教え合ったり学び合ったりする手段です。紙や鉛筆をデジタルに置き換えるのではなく、紙や鉛筆とデジタルを使いこなすんです。そんな話をしました。その後、田原さんはぼくらの協議会に入って協力してくださっています。
でも今日はディベート。
賛成派と反対派に分かれましょう。
デジタル教育について、和田中の生徒たちと、賛成派中村と、反対派田原総一朗さんの討論。
本質的な質問が多く素敵な時間でした。
生徒からの質問とぼくの答えをメモします。
・カネがかかるだろ?
カネをかけようよ。日本の公教育コスト負担/GDPは先進国ほぼ最下位。教育にお金を使っていない。小中学生1000万人全員にタブレットを配るには1千億円かかるが、道路予算10兆円の1/100。年365日のうち3-4日道路工事休めばできちゃうということ。安いよ!
・法律がネックでは?
お、勉強してるね。そのとおり。デジタルを正規教科書にするには、3法の改正が必要。新聞によれば昨日、田原さんは官邸で安倍総理に会ってる。次に会うときにそれを頼んでもらおうぜ!
・出版や鉛筆業界の失業が増える?
かもしれん。他方、新ビジネスが立ち上がる。4兆円産業になるだろう。でも、同時に国際競争が激しくなる。世界の教育産業を見据えなければいけない。
・デジタルだと目が悪くなるんじゃ?
これは研究中。デジタルだから目が悪くなるという研究結果はまだない。他方、テレビを見る赤ちゃんのほうが見ないより目がいいという研究もある。本だって目が悪くなる。読み方や姿勢は大事な問題。授業や家で普段どう読むか、どう使うかによる。それはデジタルだからアナログだからというのとは違う。
ここで田原さんのコメント。「君たちバランスが取れすぎてるよ。」「ぼくは中学時代は教員をいじめるのが楽しみだったんだ。」あちゃ~。こういうのどう引き取るんだろう。するとある生徒が「ぼくもこれから先生と闘います」と表明。おう、頼もしいね。どんどん手が上がる。ぼくの大学院の授業より手が上がる。頼もしいね。
ぼくは田原さんの自伝「塀の上を走れ」を読んでいたので、学生時代の教員いじめの話は知っていました。でもホントはその後の人生も生徒たちにゆっくり聞かせたい。自伝に描かれる、朝ナマに至る破天荒な浮き沈みが痛快すぎます。右や左の政治家たち、革マルに右翼、安部公房にカルメン・マキ、孫正義に西和彦、土屋敏男に水道橋博士・・田原さん自伝は、登場人物もみな魅力的です。
早稲田・大隈講堂のピアノを盗み出し、法学部にて反戦連合や民青、革マル、中核の学生たちの中で山下洋輔にピアノを弾かせるという69年のパンクな番組をやってのけた後「大学からは何も言って来なかった」という点に最も感動しました。ただその自伝は、ドキュメンタリーの撮影相手にセックスを強いられ、それが番組になったり、全身性感帯になる話だったり、義務教育に導入するにはちいと気が引ける。
田原さんのコメント。「デジタルよりディスカッションだ。」「答えは一つじゃない。」デジタル教育を巡り、生徒たちは討論を重ねました。それぞれの意見をiPadで共有し、比較しました。その結果、授業の終わりに賛成・反対を尋ねたら、7:3という結果。まだ反対が3割残ったかぁ、くやしい。でも、ディスカッションしたよね、答えは一つじゃなくてバラバラだったよね、iPadというデジタルで共有したよね。これだ。こういう授業。
前校長の藤原和博さんもお越しになってました。藤原さんは大阪の校長先生に民間人を入れることを進めています。その効果に期待したい。教育は、アナログやデジタルで変わるんじゃなくて、「人」で変わる。
ぼくはその足で、大阪市教育委員会のお仕事に向かいました。教育情報化をテーマにした教員向けセミナー。大阪市教委は桜宮高校の体罰問題で大揺れでしたが、そのさなか、500人の先生方がお集まりくださいました。「人」が大事です。
大阪市は全国に先駆け、2015年にデジタル教育を全市展開することを宣言しました。すると、この週、東京都荒川区が2014年度に一人一台タブレット環境を整える方針とのニュースがありました。これで東阪が揃いました。デジタル教科書・教材協議会の目標、2015年一人一台はムチャだとされてきましたが、あながち夢でもなくなってきたようです。
でもあくまで使うのは生徒たちと先生たち。使う「人」に向き合って、進めていきたいと思います。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年3月14日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。