日経に掲載されていていた3月2日付イギリスエコノミスト誌の「米国が危ぶむ安倍首相の真意」の翻訳を読んで奇妙な感じがしましたので今日はこれを取り上げましょう。
エコノミスト誌が衝撃的な仮説をぶち上げているその部分とは、日米関係はずっと磐石なものだったが、オバマ大統領に今ひとつ信頼しきれない対象があるとすればそれは安倍首相だと断じたところに違和感を感じました。日本のマスコミのトーンは安倍首相は日米関係を再構築したぐらいの書き方だったと思います。民主党時代、鳩山元首相は中国韓国寄り、菅元首相はそれを修正しようとしたが震災でそれどころではなくなり、野田元首相は外交が弱く尖閣で振り回されたという流れですのでアメリカとの関係は確かに民主党時代の「空白」期間から日米蜜月の関係に戻ったと見るのが普通です。
ではエコノミスト誌はなぜ、安倍首相が悩みの種になるかもしれないと考えているのでしょうか?それはずばり首相の思想に懸念を示しているとみたほうが良いかもしれません。事実、記事にこんなくだりがあります。
「首相就任以来、安倍氏が書いてきたメッセージは、同氏の世間知らずぶりを露呈している。彼は、1945年の敗戦以前の帝政日本は悪事を働いたことがほとんどないと考えているらしい(この見解は隣国の怒りを買っている)。さらに不思議なのは、戦後の日本に善い行いがほとんどなかったかのように書いていることだ。また、『日本という国』を『戦後の歴史による支配』から解放したいとつづっている。」と。
前段の部分については別の機会に譲るとして、最後の「戦後の歴史の支配からの解放」とは何かといえばまさに憲法改正なのであります。ご承知のとおり、日本国憲法はアメリカが作った憲法とか、マッカーサーが持ってきた憲法と言われるなどGHQ支配下における中での草案、公布、施行でした。それ以降、一度も改正されたことはありません。よって、一部の人は「自分たちの手で作った憲法ではない」と考える人もいるわけです。
アメリカが日本の憲法改正に直接的に介入できるものではありません。しかし、アメリカは安倍首相のカラーがあまりにも強すぎるところに「スピード違反」になることを懸念しているのではないかと思います。
たとえばこのエコノミスト誌が発行された後の先週12日衆議院の予算委員会で東京裁判に関する質問に対して「大戦の総括は日本人自身の手でなく、いわば連合国側の勝者の判断によって断罪がなされた」と答え、日本のマスコミは毎日や日経が小さく紹介しているものの中国がすかさずこれを批判するなどの動きがありました。いまさらなぜ、東京裁判の質問をこの場で首相にするのかその真意も分かりませんが、首相がこれにまともに答えたところも、「ん?」と思わざるを得ませんでした。
首相の答えは実に正しいのですが、「勝者の裁き」にはアメリカが主導していたことを考えれば遠まわしにはアメリカ批判とも取れなくはないのです。
アメリカが日本に期待しているのはアメリカのコントロール下に置くことであります。アメリカは自分たちを脅かしたり、凌駕されることに非常に大きな抵抗を示します。日本が昔、アメリカと貿易摩擦を起こしたのもそうですし今、米中関係がギクシャクしているのもそうなのです。となれば、アメリカにとって安倍首相がどこまでやるのか、そして、その結果、国際秩序を保ち、アメリカと真の同盟を維持できるのだろうかと疑心暗鬼になる可能性はあります。
たとえば、北方領土問題で日本がロシアとディールをして(=ある程度妥協して)解決に向かうとしましょう。アメリカは怒るはずです。なぜ妥協した、と。なぜなら日本のロシアへの妥協は日ロ関係の改善を意味し、完全無比な日米関係の構築に邪魔者が入るからです。
これはアメリカの嫉妬と言ってもよいでしょう。ただ、嫉妬にもレベルがあります。邪魔をされるほどにならないよう、うまく立ち回ることが「安倍丸」の真の求められる実行力ではないでしょうか?外交とというのは実に難しいものだと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年3月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。