習近平体制の中国への期待と不安 --- 岡本 裕明

アゴラ

全国人民代表大会、略して全人代が先週末、終わりました。習近平体制の本格始動になります。その習国家主席は、今の中国は腐敗、所得格差、暴動などの状況が1989年のその時よりも悪い、とつぶやいているようです。更には外交についても日本やフィリピンを始め、アメリカ、ベトナムともハードルがありますし、対北朝鮮政策も今までから一転して厳しい姿勢をとりつつあります。習主席が訪ロを決めたとはいえ、ロシアとも決して良好とはいいがたいと思います。そういう意味からは対外関係は孤立化しつつあるような感もあります。


尖閣問題に端を発した中国国内の暴動で日本企業は「プラスワン」と称する中国以外の国にシフトするバックアッププランを推進しています。一方、中国は重要な市場である、と確信している日本企業でもその業績は必ずしも芳しいものではありません。資生堂の社長交代劇は中国事業の不振に対する責任もそのひとつと言われています。

ですが、中国から他国へのシフトは日本に限ったわけではありません。アメリカでは国内製造業の強化を標榜し、アメリカ国内回帰が進みます。アップル社もiMacの米国生産の準備が進みます。台湾の鴻海精密工業はアップル社の製品など世界最大のEPS(製造受託)会社ですが、その生産拠点を中国からアメリカ、ブラジルなど世界各地に分散する動きが出てきています。一方、同社の中国国内の生産拠点はその拡大を中止するなど明らかな変化が見られます。

中国が抱える問題とは低迷する外需、脆弱な内需、上昇する労働コスト、低い生産性(日経ビジネス)とされています。しかし、これは中国国内に端を発する事項ばかりです。中国人の気質として消費より溜め込む傾向が強く、結果として需要不足が生じ、輸出せざるを得ないわけです。が、欧州危機など外需もいまひとつという中で雇用側は生産効率のアップを図ろうとするもののそれに対する不満が鬱積、結果として転職率が極めて高く、労働コストは上昇するというシナリオかと思います。

山崎豊子氏の作品に「大地の子」という長編小説があります。中国在留日本人孤児を文化大革命時から上海の宝山鋼鉄の立ち上げという時期のストーリーの中で描く巨編ですが、その中で中国と日本側が当時、如何に対立し、温度差があったか、その苦労話は現代の日中関係とそっくり同じであるといっても過言ではないでしょう。何十年も前の事実と今日の問題がほとんど変わっていないとすればそれは双方の関係改善がどれだけ困難な道のりかということを物語っています。

中国の経済モデルである信用緩和を通じたインフラ投資の急拡大、それに伴う不動産業への資金流入が不動産価格の高騰を招き、インフレも生じているのですが、これなども国家主導経済であり、民間が需給に基づき自主的に生み出しているものとはかけ離れている感じがします。習体制の中国がどのような軌道修正を今後していくのか、或いは中華思想をばく進するのか、そのあたりはこれから少しずつ手の内が見えてくると思います。その手腕には世界が注目することになりそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年3月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。