アベノミクスは成功し、その役割は終わった

池田 信夫

アゴラが反アベノミクスに片寄っていると思われても困るので、中嶋よしふみさんの記事に反論しておこう。アベノミクスの目的をどう考えるかにもよるが、「日本経済を元気にする」という意味ではそれは十分成功した。株価も地価も活況を呈し、麻生財務相のねらう資産インフレが起こっている。偽薬としてのアベノミクスの効果はもう出ているのだ。

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しかし資産インフレが経済成長に結びつくとは限らない。上の図は1985年を起点とする日経平均株価と名目GDPの推移だが、80年代後半に株価は3.3倍になったが、1992年には名目GDPと同じ伸び率まで落ち、その後は一度もそれを上回ったことがない。つまり日経225より「名目GDPインデックス」を買ったほうがもうかったわけだ。

これは、ある意味では当然だ。GDPというのは「国内の付加価値額-中間投入」だから、ざっくりいうと企業収益の合計に近い。したがって長期的にみると、成長率を超える株価はバブルだということができる。この意味では、ここ20年の日本の株価は「逆バブル」ともいうべき状況が続いており、もう少し上がる余地はあるだろう。

ただし、それは物価上昇率とは何の関係もない。麻生氏ものべたように「金融政策だけで成長するなどという(岩田副総裁の)話は、実体経済を知らない人の妄想」だ。2月のコアCPIは-1%に下がり、長期金利は0.6%に下がってデフレ予想を織り込んでいる。安倍首相の「日銀が輪転機をぐるぐる回せばインフレになる」というお伽話は、嘘だったわけだ。

アベノミクスの実体経済への効果は何もなかったが、それでいいのだ。大事なのはインフレではなく、企業が収益力を上げることだ。そのためには新しいビジネスチャンスに挑戦する「アニマルスピリッツ」や、人材がタテ社会の殻を破ってヨコに動ける改革が必要だ。

アベノミクスはしょせん偽薬であり、気分転換としての役割は終わった。その効果が消えないうちに、本丸である労働市場の改革に取り組むときだ。今夜のアゴラチャンネルでは、城繁幸氏とともに日本人の働き方をどう変えるかを考えたい。