著者:ジャレド・ダイアモンド
出版: 日本経済新聞出版社
★★★★☆
ベストセラー『銃・病原菌・鉄』の著者の最新作。内容はオリジナルではないが、最近の社会科学で起こっている新しい潮流を知るには役立つだろう。それは伝統的社会は、かつて人類学者が描いたような定常的な「冷たい社会」ではなく、絶え間なく移動しながら戦い続ける「熱い社会」だったということである。
これについては膨大な証拠があるが、著者はむしろこのように重大な事実がなぜこれまで隠されてきたのかを問うている。それはかつて植民地支配した西洋人が、圧倒的な武力で彼らを征服したため、それ以前の伝統的社会は平和だったと思い込んだからだ。
事実は、その逆である。イギリスがニューギニアを植民地化してから、現地で継続的に起こっていた戦争がなくなった。政府がすべての部落を徹底的に武装解除したからだ。原住民は「政府のおかげで、後ろから殴り殺される心配なしに野外で排便できるようになった」と感謝したという。
西洋人が錯覚していたのとは逆に、国家が戦争を劇的に減らし、今日の繁栄を生み出したのだ。これは多くの分野で実証的に確かめられているが、平和ボケの日本ではあまり知られていないようだ。専門書の翻訳は今のところ『文明と戦争』ぐらいしかないが、Pinkerはたぶん訳本が出るだろう。Fukuyamaはぜひ訳してほしい。入門書としては、『「日本史」』の終わりをどうぞ。