TPP交渉参加が表明された今、焦点は農業など弱いとされる部門の対応に目線が移ってきているかと思います。私はTPP参加による農業の影響は一時的に苦労すると思いますが、最終的に大きな改善が期待できると見ています。今日はこのあたりを考えてみましょう。
日本のバブル崩壊後、一番先に苦しんだのはいわゆるホワイトカラーと称する人たちでした。企業のリストラと賃金カットなど厳しい雇用環境が生じたためです。次いで若い人を中心に非正規雇用の問題も生じました。
自営業者は戦後が生んだ日本のビジネスの歴史でもありますが、過半数がその時代の役割を終えてしまったと思います。理由は自営業のビジネスモデルは成長を生みにくいのです。同じ店舗で店主が何年も何十年も同じ客や同じ仕入先とやり取りするのです。そこには次のステップが見出しにくい体質がありました。
農業については高齢化、跡継ぎ問題があるといわれながらもカロリーベースの食糧自給という大命題に支えられ1946年の農地解放以来今日まで抜本的な改革は行われてきませんでした。ある意味、国策として極めて大事に育てられてきた産業ともいえましょう。しかし、上述のように日本はこの数十年の間に大きな労働環境の変化に耐えてきました。就労者の主たる部分を占める被雇用者(サラリーマン、勤め人)や自営業者はその荒波にもがきました。勿論、農業従事者も苦労してきたでしょう。しかし、多大なる補助金行政で農業は優遇されてきました。
企業感覚でみれば農業への補助金は赤字企業への出資のようなものです。出資をする以上、普通は経営改善が伴うものですが、日本の場合、その生産性はなかなか向上せず、赤字補填の粋を出ませんでした。また、産業としての魅力も徐々にその輝きを失ったと思います。結果として就業者の平均年齢65歳という考えられないような状態が生じたわけです。このままじっとしていれば5年後には平均年齢70歳になるのでしょうか?その前に廃業者が出てくるはずですから日本の農業生産量は結果として落ちて来ることになりませんか?
私はこれほどの高齢の農業従事者が主体だからこそTPP参加による農業革命が必要であるし、また、やりやすいと考えています。農地解放に次ぐ大きな体制変換、まさにレジームチェンジです。
北海道農政部がTPPによる北海道への影響試算をしていますが単年度で2兆1千億円の影響があると試算しています。その内容を見ると米9割減、小麦、てん菜、でんぷん、肉用牛、豚は壊滅、酪農は大幅減少と総悲観の見積もりとなっています。しかし、TPPによりなぜ現状の価格差だけで壊滅すると決め付け、ほぼ外国産に取って代わるという極論を前提数字にするのでしょうか? 企業ベースでは絶対にありえないアプローチです。世の中に努力という言葉はないのでしょうか?
以前山形のさくらんぼの話をこのブログでしたと思います。アメリカ産チェリーに市場を完全に奪われるのではないかと猛反対の中、1978年アメリカからの甘いチェリーはスーパーで並ぶようになりました。が、山形産のあの美しくみずみずしいチェリーは以前以上の生産高を誇ります。それは努力以外の何者でもないのです。
高齢者が主体の日本の農家に門戸開放を迫れば誰でも嫌がります。それを支える若手の農業従事者が積極的に新しい農業という産業を生み出せるよう世代間のバトンタッチも必要でしょうし、後継者不足の場合には企業レベルでの展開を受け入れる農家の寛容さも必要です。日本の土地は神様からの預かりものであるという発想があるなら、それを企業が借り受けるというスタイルでどうやったら改革できるか、その道筋をきちんと考えることが必要かもしれません。JAの役割を見直す必要も当然出てきます。
もちろん、言うのは簡単というご批判は多いかと思いますが、われわれは今、発想の転換をするときにあることは確かな事実だと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年3月23日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。